レンタカーでのハイランド旅行

ハイランドの魅力は点よりも線と面にある.何処の町の何とかビジターセンターとか何とか博物館を訪れて,”仮想ハイランド”に満足するよりも,車を走らせて,気に入ったところで止めて,湖面を眺め山と対峙し,羊と会話することをお勧めする.

恋をすると誰もが詩人になると言われるが,視界の中に人間の生活を感じさせるものが一切ない風景.その風景と自分の生活を比べる時,人は誰でも哲学者になる.岩山の表面に辛うじて生えるのはヒースのみ.農作物を一切拒み続けてきた土地.そういったハイランドの風景の中で,あなたも哲学者になれるのだ.

ハイランドへの私の思い入れが信仰そのものだとしたら,ハイランドへの旅行は巡礼以外の何物でもないだろう.しかし,こんなに素晴らしい巡礼があっただろうか.晴天続きで日に焼けて,まともなシャワーは一度だけ.以下,ハイランド信仰の布教のため,旅行の様子を記す.

旅行の主要なパラメーター
旅行期間:98/7/14-7/18.4泊5日
移動手段:レンタカー.
ルート:別紙地図参照(出発地;Glasgow-Ullapool(2泊)-Kyle of Lochalsh(2泊)-Glasgow)
走向距離:1000マイル.

なぜレンタカーなのか
ハイランドはホリデーシーズンでも公共の交通機関の密度が乏しい.観光客の少ない(すなわち美しい)ところほど,移動手段は車に限られる.エジンバラとインヴァネスとネス湖に行ってそれで満足という人はそれで結構だが,そうでない人がハイランドを楽しみたいという場合には車を使うしかない.更にレンタカーには雨に強いという利点がある.ちょっとでもスコットランドの天候を知っている人なら,重い荷物を持ったまま土砂降りの中でバス停に立ち尽くす悪夢は容易に想像できるだろう.→レンタカーの営業所→レンタカー使用時の注意

北西海岸に決めたわけ
4泊5日と時間が限られていたので,広いハイランドの中でも旅行地を限定する必要があった.今回の旅行では北西海岸に焦点を当てた.その理由は,交通の便が悪いが,それだけに観光地化しておらず,自然の風景が素晴らしいからだった.

Kyle of LochalshからDurnessに至るMoine断層はスコットランドの大断層で,この断層から海側はスコットランドの他の地域と地質が決定的に異なる.実に10億年以上前のTorridonian変成岩から成っていて,それが独特の風景を作っている.地質学的にも非常に興味深い土地なのだ.

往復のルートを決める:移動に要する時間に注意(別紙地図参照
車でスコットランドを回る場合,RAC(王立自動車協会)のRoute Planner Serviceを利用しない手はない.出発地と目的地を入れるだけで,最短経路と所用時間を出してくれる.地図でマイル数と道路条件をにらめっこしながら所用時間を算定する,あの悩ましい作業からあなたは開放されるのだ.

グラスゴーから北西ハイランドに向かうには西海岸寄りに北上するルートと,A9経由でStirling-Perthからグランピアン山脈を抜けてInvernessから北西に向かうルートがある.2つのルートの大きな違いは距離と所用時間である.後者のA9ルートの方が,移動距離が短い上に片側2車線道路の割合が多いのでスピードが出せるからはるかに早い.西海岸ルートは湖や山を迂回しながら走るので距離が長く,グラスゴー近郊のごく一部の区間を除いてすべて片側一車線なのでスピードが出ないし,カーブや傾斜がきつい道が多い.その代わり沿道の風景は西海岸ルートの方がはるかにいい.

今回の旅行では往路をA9,帰路を西海岸ルートにした.その理由としては,まず,往路では目的地の北西ハイランドに速やかに到着したかったこと,スコットランドに到着間もない時期の運転であり,できるだけ運転しやすい道を選びたかったことがあげられる.そのかわり,帰路は時間をかけて,何回も途中で停車しながら周囲の風景をゆっくり楽しみながら帰るという計画を立てた.

ハイランドは道路事情がよくない.片側一車線どころか,道幅が狭く,対向車とは所々にある待避所(道路の出っ張り)でしかすれ違えないという,日本の田舎道以下の道路がたくさんある.こういう道路では移動時間がひどくかかる.そしてそういう道に限って息を呑むような風景の連続で,車を止めてしばし見とれたくなるので余計に時間がかかる.片側2車線の道路なら80マイルの巡航速度を維持できるのに,田舎道では時速30マイルが精いっぱいなんてこともざらだ.道路地図を見ながら旅行計画を立てる場合には距離ばかりでなく,道路状況を確認しながら作業を進めていってもらいたい.

もしハイランドだけに興味があり,エジンバラやグラスゴーには興味がない場合には,ヒースローからインヴァネスに飛んで,そこでレンタカーを借りてハイランドを巡るという手もある.これはハイランドを訪ねるには能率的ないい方法だ.というのは,エジンバラあるいはグラスゴーからだと,ハイランドへの移動のための時間を無駄にしなければならないからだ.それだけで往復で2日つぶれる.また夏のハイシーズンは,エジンバラーインヴァネス間のA9にせよ,グラスゴーからFort WilliamへのA82にせよ,車が多くて運転には結構神経を使う.乗用車ばかりじゃなくて,lorriesやキャンピングカーといった車も多く走っているから,追い越しなんかも気を使うんです.

その点,インヴァネスまで行ってしまえば,ハイランドのどこへ行くにも道はすいているし,つまらない気を使わずに自分のペースで,途中で気ままに止まって写真でも撮りながら車をころがしていけばいい.

宿泊地を決める(別紙地図参照
4泊のうちどこに何泊するかは大きな問題だった.上記のように,一日の移動距離をまず考えなくてはならない.また,一口に北西海岸といっても,美しい場所は山ほどある.たとえばSkyeだけでも,4泊ではとても足りない.(私の個人的な見解だが,もしSkyeを十分堪能するとしたら2週間はほしい)Skyeと並んで是非とも訪れたかったのは,Ullapoolの北,人里離れたAssynt/Coigachや,ヨットハーバーのある小さな港町Gairloch,壮大な山々を控えるのTorridon,Applecrossといった場所だ.どんな選択をしても,通り過ぎるだけであきらめなければならない場所が出てくる.いろいろ悩んだ挙げ句,Ullapoolに2泊し,Assynt/Coigachを回り,それから南下しながらGairloch,Applecross,Torridonを経由してKyle of Lochalsh付近に2泊してSkyeを訪れたのち,Fort William-A82経由でグラスゴーへ帰るという計画を立てた.

Ullapoolは北西ハイランドを旅行する際の拠点となる重要な町である.Information,銀行,スーパーマーケット,ガソリンスタンドといった施設が揃い,宿の数も多い.また,Ullapoolはグラスゴー,エジンバラを朝出発して,A9,Inverness-A835経由で午後3時前後に到着できる,ちょうどいい距離にある.(西海岸ルートでは一日のうちにUllapoolに到着するのは不可能.Kyle of lochalshまでが288キロで,これが精いっぱいである.)

ハイランド絵日記

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