医者が大都市ばかりに行って田舎勤めを嫌っているという噂が巷に流れている.殊,医者の偏在に関しては,厚労省も,厚労省を普段糞味噌にけなす人々も,仲良く大合唱なさっているのは,誠に奇妙な光景だが,一体どこのどんなデータをもとに,どのような判断基準をもって偏在というのか,話を聞いたためしがない.
一方,医師は偏在していない.患者の多いところに集まっているだけだと,江原 朗先生が,2007年9月29日付けの日本医事新報で,データを呈示してくださっています。江原先生ご自身も小児科医で,小児科医不足の問題に積極的に取り組んでいらっしゃいます。
江原朗. 県庁所在地への小児科医の集中は小児人口の集中と強い相関を示す 日本医事新報 2007;4353:77-79.
偏在ではなく、患者が多いところに医者が集まるに過ぎないのです。江原先生は、現在の医師配置に大きな歪みがない以上、その歪みを正すというアウトカム設定はできない。ならば、よりサービスへのアクセスを改善し、かつ医師の労働負担を軽くする方策として、集約化と同時に導線の確保を行うべきだと、ごく当然の主張を展開しています。
この記事を、ある方に伝えたところ,小児科は集約がいいかもしれないが、生活習慣病はそうもいかないだろうとのご返事をいただきました.下記はそのやりとりです.
> 慢性疾患の集約化は極めて困難です。集約化できる医療は手術やお産
> など、数日でけりがつくものばかりです。慢性疾患を考える場合、日常導線へ
> の配置を、いかに行うかだと思っています。
生活習慣病こそnurse practitionerの出番でしょう(→医者を失業させるには)。何も新しい制度を作る必要はありません。医者の代わりに看護師が巡回し、医師の指示・処方はテレビ電話で看護師と薬剤師が受け、必要なものは宅急便で配達する。そういう診療は、現在の法制度下でも可能なのではありませんか?IT,遠隔医療という言葉が大流行していた時代を,もうお忘れでしょうか?
日本医師会がごちゃごちゃ言うのを心配なさっているのでしょうか?ご心配には及びません。「あんがたが、忙しいから過労死しそうだと言うから、負担を軽くしてやろうってんじゃないか。文句を言われる筋合いはない」って一言言って、いつものように、抵抗勢力、欲張り村のレッテルを貼ればいいだけじゃないですか。
nurse practitionerの出現で,医者が看護師に仕事を奪われるなんて考えは妄想に過ぎません.そんな妄想を持った医者に,診療する資格はありません.看護師に仕事を奪われるのではなく,看護師に助けてもらうのです.
生活習慣病以上に医師の腕力が必要と思われている救急医療の分野でも,paramedic practitionersが有効に機能しうることが示されている時代です.
Effectiveness of paramedic practitioners in attending 999 calls from elderly people in the community: cluster randomised controlled trial. BMJ 2007;335;919
本田 宏 Physician assistant制度を導入せよ.日経メディカル ブログ 本田宏の「勤務医よ、闘え!」 2007. 11. 1
パーキンソンの法則は、役人だけに当てはまるわけではありません。日本の医者は、ガキがありったけのおもちゃを抱え込むみたいに、あれもこれも俺の仕事だって言い張って、挙げ句の果ては、給料が安い、人手が足りないってわめき出すのです。楽をしたけりゃ、他人に仕事を押しつけりゃいいのに、近頃はグリーフケアと称して、坊主からも仕事を取り上げる始末です。そういうメンタリティだから過労死しちゃうんだと、親切な私は心配してあげているのです。
日本には、助産師・助産所の伝統があります。国立がんセンターの土屋了介先生は,「看護師が麻酔科医を補佐する『看護麻酔士』の資格を新設すべきだ」とまでおっしゃっています.さらに、訪問看護ステーションが、日本全国で稼動している。なのに、生活習慣病の診療を看護師がやってどこがおかしいのでしょうか.
ですから、”現行の法制度でも、遠隔医療で医師の指示を受けて生活習慣病の診療を看護師が行うことは可能である”と、医政局長が国会答弁できるのです。もし万が一、当事者たちにその度胸がなければ、無医地区が、nurse practitioner特区になればいい。無医地区にもその度胸がなければ、それまでのことです。日本中の無医地区の住民が、”おらが村に赤ひげを、大都市ばかりに住もうとする医者はけしからん”と言い続けても、何の問題も解決しません。
メディカルスクールをどうするかなんて悠長な議論してる場合ではありません. 明日から、看護師にnurse practitionerの仕事で助けてもらわないと、もう持たない。あなたはそう考えてはいないのですか?
参考
津久井宏行 日本のバイト医師の仕事は米国のPhysician
Assistant並み(2007. 11. 16 日経メディカルオンライン) (下記抜粋)
医師という人材資源の有効活用を
今回の日本滞在中に私が行った業務のほとんどは、米国ではPAが担っている内容だった。日本にはPA制度がないことや法規制などから、これらの業務を医師が担わなければならない。
また、こういった業務は、外科手術などに比較すれば訴訟リスクは格段に低いにもかかわらず、逆に給与が高かったりする。これはどう考えてもおかしい。これでは、医師の負担が多い科(外科、内科、産婦人科、小児科)からの医師離れを防ぐのは無理である。
PA制度の導入をはじめ、医師免許を持った人材資源をもっと有効活用することは、疲弊しきった日本の医療を改善する一助になるのではないだろうか。