埼玉医科大学での顔面痙攣(片側顔面痙攣、顔面けいれん)の手術 Q and A

よくお尋ねいただく質問へのお答えです
(回答の内容については、あくまでも藤巻の個人的な経験に基づくものが主です、他の病院での手術の内容にはあてはまりません。またいろいろな症状などは個人差もありますので、あくまでも一般論です。)

Q1.顔面痙攣の手術は脳外科の専門の先生ならばどこで手術しても同じなのでしょうか?
A1.顔面痙攣の手術は、神経を圧迫している血管を移動する手術です。神経を切るとか血管を切ったりつないだりという手術ではないので、「誰でもできる手術です」とおっしゃる脳外科の先生もいます。たしかにあまり数を経験されたことのない先生で限られた経験であまり困難を感じないで手術をした経験がある場合、「誰でもできる」と思うのかもしれません。しかし藤巻が尊敬している、いろいろな脳外科の手術をとてもたくさん経験されている某大学の名誉教授の先生は「最も難しい脳外科の手術の一つ」とおっしゃいます。脳幹部の前で血管を移動する手術ですので、400例以上のこの手術を行なっている藤巻も、いつも難しい手術だと思って行うようにしています。

Q2.埼玉医大の顔面痙攣の手術は他の病院で行なうのとちがうのでしょうか?
A2.私たちの手術は、安全、確実な手術を行なうために、いろいろな工夫をしています。まず、聴力の障害がおこらないように手術中に特殊な脳波の検査を行なって聴力を確認しながら手術を行なっています。専門の臨床検査技師が手術中ずっとこの脳波反応をみはっています(Q7も見てください)。また、内視鏡というものを用いています。これは顕微鏡の手術でみえにくい影の部分を覗き込むことができるので、無理をしないで安全に顔面神経の周囲を観察して、確実な手術ができるようになっています。
手術では、皮膚の切開は、おそらく他の病院よりかなり小さいと思います。藤巻は福島孝徳先生の「キーホールサージャリー」のマスターをいただいておりますので、小さい開頭で手術するからです。


「ゴッドハンド福島先生」からいただいたキーホールサージャリーのマスターの証明です。

もっとも重要な神経への血管の圧迫を取り除く方法ですが、神経と血管との間に「クッション」を入れる方法は、再発の危険が高いと考えていますので、人工血管の素材から作成したテープで血管を引っ張って移動する方法を基本としています。


手術の実際です。左側では、2本の血管(血管A, 血管B)の圧迫のため、顔面神経がほとんど見えません。テフロンのテープで2本の血管を覆うようにして移動しました(右側)顔面神経を圧迫していた血管が移動されて顔面神経が見えています。(わかりやすいように手術画像に書き込みをしています)。


内視鏡の画像です。顕微鏡ではみえづらいところも詳しく見えています。

Q3.髪の毛は全部剃るのですか? わたしの知人で脳外科の手術を受けた方の傷跡が目立つのですが、、。
A3.手術する部位のみ剃らせていただいています。
埼玉医大での手術では、痙攣している側(右の痙攣の方は右)の耳の後ろを5cmほど切開して手術をします。この切開部の周囲だけの髪の毛を剃っています。切る場所は髪の毛が生えている場所ですので、髪の毛が伸びてくれば傷跡は目立ちません。また女性で髪が長い方であれば、退院後、上の髪をさげれば傷は隠れますので、髪の毛を剃ったところもわからないと思います。ただこの5cmという数字や、剃る範囲はあくまでも埼玉医大での話です。通常はこれよりも大きな傷となることが多いと思います。


術後6ヶ月目の男性の手術部です。髪の毛をかきあげると5cmほどの傷がわずかに見えます

Q4.知り合いが、顔面痙攣の手術のあとで、髄液が漏れるようになったということで、しばらく腰から管をいれて脳の水をぬきながらベッドの上で安静にして入院していました。これはよくあることですか?
A4.埼玉医大で顔面痙攣の手術を受けた方で、脳の水が漏れたり、腰から管をいれた人はいません。脳は髄液の中に浮かんでいるので、脳の表面をつつむ膜を丁寧に縫い合わせても、水が漏れるのを完全に防ぐ事は、簡単なことではありません。埼玉医大ではいろいろな工夫と技術でこれを防いでいます。

Q5.顔面痙攣で近くの脳外科を受診したのですが、手術をするには脳血管撮影というカテーテルを血管の中に通してする検査が必要といわれました。埼玉医大でもこの検査を行いますか?
A5.ふつうの顔面痙攣の場合、カテーテルの検査は行ないません。MRIの検査で脳の血管の状態をしらべれば、手術に必要な血管のことはわかるからです。カテーテル検査はわずかですが危険を伴うものですし、MRIで必要な情報が得られますので、通常の顔面痙攣の手術のためには不要と思っています。

Q6.輸血はしますか?
A6.藤巻は、この手術で、輸血が必要となったことも、また輸血を行なった事もありません。

Q7.耳が聞こえなくなることがあると聞いたのですが、本当ですか?
A7.この手術で、手術側の聴力が低下することがあります。音を聞く聴神経(内耳神経)が顔面神経のとても近くを走行しているからです。この手術で世界で最も有名なピッツバーグ大学のジャネッタ博士でも2ー3%の確率で聴力障害が起こったと報告しています。ほかの施設からの報告では、もう少し高い確率のところが多いようです。A2にも書きましたが、埼玉医大ではいろいろな工夫をしていますので、重大な聴力障害の確率は1%未満です。


手術中に耳の神経の働きをしらべながら手術をする機械です。


Q8.近くの病院で、神経と血管のとの間にクッションをいれて手術をするといわれたのですが、埼玉医大でも同じですか?
A8.やはりA2に書きましたが、神経と血管の間にものをはさむ方法は、再発の可能性が高くなると思います。血管を移動する方法で手術をするのが望ましいと藤巻は考えています。

Q9.10年前の盲腸(虫垂炎)の手術の傷の周囲がいまでもしびれたようになっているのですが。脳外科の手術でもしびれますか?
A9.皮膚の感覚神経は、外科手術の場合、どうしても多少障害されます。ですから、脳外科の手術の場合も傷の周囲がしびれたり違和感が残る事がほとんどです。ただ、埼玉医大では、藤巻が開発した皮膚の神経をなるべく障害せずに手術を行なう方法をとっていますので、しびれ感や違和感は、この方法を行なわずに手術をする場合とくらべて程度や頻度が少ないと考えています。

Q10.入院期間はどれくらいですか?
A10.2週間半から3週間です。なにも合併症のない方であれば2週間で十分なのですが、遠くから入院される方も多いので、術前すこし余裕をみて4ー5日程度前に入院していただいています。入院後、ご本人が気づかないもともとあった病気(ぜんそく、高血圧、特異体質など)が見つかった場合、それぞれの専門の科で診ていただいて麻酔科に相談しないといけません。せっかく入院したのに、麻酔がかけられないで手術が延期や中止になるのは、ご本人や手術の準備をしている病院のスタッフが残念だからです。

Q11.入院中、ずっと動けないのですか? つきそいが必要ですか?
A11.手術当日はベッド上安静です。また翌日も動こうと思えば動ける方が多いですが、念のため、ベッド上安静にしていただいています。2日目からは少しずつ歩いていただきます。安静にしていていただきたい2日間は、病院のスタッフが身の回りのことはいたしますので、付き添いは不要です。ただし、脳外科の手術ですので、手術の当日は可能であればご家族に病院に来院していただくことが望ましいと考えています。

Q12.退院後、旅行の予定があるのですが、飛行機に乗っても差し支えないのでしょうか?
A12.もちろん差し支えありません。そもそも埼玉医大に手術で来院される方は、飛行機でいらっしゃる方(といっても海外の方は一部で、国内の遠方の方たちですが)も少なくありません。退院時、飛行機で帰っておられます。


(↑過去に手術にいらっしゃった方達のご住所です、飛行機で来院される方もいらっしゃいます)

Q13.管理職です。書類がたまってしまうので、2週間も休めないのですが。病室でコンピュータで仕事はできませんか?
A13.本当にお体が辛いのは手術の日とそのあと1ー2日です。その後は、デスクワークならできると思います。病室でコンピュータで原稿を書いていた方や書類を処理されておられた方もいらっしゃいます。インターネットの設備はありませんが、無線通信でインターネットをなさっておられる方もいらっしゃいます。病室で書類を扱うお仕事をしていただくのは差し支えありません。

Q14.手術後、ダイビングや登山などのスポーツをしたいのですが、できますか?
A14.手術後2ヶ月は激しいスポーツは避けていただいていますが、その後は生活、運動等まったく制限はありません。退院後にあるスポーツの日本記録を出した方もいらっしゃいます。

Q15.ボトックス治療はどう考えれば良いですか
A15.ボトックスは外来でできる治療ですし、効果が気に入らなければ何ヶ月か待っていれば、もとにもどるだけです。ですから、手術にはちょっと踏み切れない、仕事が忙しくて手術がすぐできない、などとおっしゃられた場合、まず試してみられる事は良いのではないか、といつもお返事しています。もちろんボトックスの施行医によく話を聞く事も大切です。

Q16.埼玉医大はちょっと遠いのですが、、、 入院前に何回も通わなくてはいけませんか?
A16.現在、手術をさせていただいている方達のかなりの数が、入院だけ埼玉医大で行なっています。都内でも毎週ではありませんが、帝京大学や東京クリニックで土曜日に外来をやっています。東京クリニックに受診される場合の流れを図に示します。最短で東京クリニックに2回外来に来ていただければ、あとは手術の順番を待っていただくだけです。手術前は原則としてかならず2回、外来でお目にかかることにしています。これは埼玉医大でも同じです。手術という重大な決断をするために、ゆっくり考える時間をとっていただきたいためです。ややご面倒に感じるかもしれませんが、ご理解ください。




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    <参考> NHKきょうの健康のホームページ : 藤巻が解説しました

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