これを読めるか?

警察官、検察官、裁判官諸氏も、下記の記事は日本語で書いてあることは、おそらく わかるだろう。しかし、日本語で書いてあるからといって、それが理解できるとは限らない。医事裁判に関与するならば、これよりも数十倍も難しい文書を理解することが要求される。

業務上過失致死で被告人となった医師が刑事訴訟法を理解するのと、警察官、検察 官、裁判官諸氏が下記の記事を理解するのと、どちらが難しいだろうか?業務上過失致死で被告人となった医師が刑法を理解するのと、警察官、検 察官、裁判官諸氏が解剖学の教科書を理解するのと、どちらが難しいだろうか?

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なぜ繰り返される異型輸血 の事故 - 中島和江・阪大病院中央クオリティマネジメント部部長に聞く◆Vol.4
バーコード活用でも、事故は防げず M3.com 2014年10月28日(火) 聞き手・まとめ:橋本佳子(m3.com編集長)


――今、力を入れるべきは、さらなる事故の収集よりも、分析や再発防止策の検討、実施とのことです。

 少し事例を紹介します。ABO型不適合輸血(いわゆる異型輸血)は、関係学会の調査等によると減少傾向にあるもの、依然として発生してお り、輸血実施時の患者と血液製剤の照合が不十分なものが多く見られます。日本医療評価機機構事故情報等収集事業のデータベースで輸血事故を検 索すると、患者さんに重篤な障害が発生していないものも含み43件がヒットします。

 一つの特徴として、ICU、NICUや救命センターのような重症患者さんに緊急処置や集中治療を行っている部門での事例が多いこと、それ も、バーコードリーダーやPDAが導入され、患者さんと輸血する血液製剤の情報が照合できるシステムが入っている施設で起きているのです。こ うした場所で、なぜ事故が起こり続けているのか。1件の事例を「なぜ、なぜ」と深く掘り下げることも必要ですが、もっと重要なことは、「普 段、現場のスタッフはどのように仕事をしているのか」という、現場の業務の複雑さを理解することではないでしょうか。

 人々が頭の中で考える正しい輸血の手順は、「血液製剤の保冷庫から血液製剤を取り出し、血液製剤払い出し帳票にある情報と照合し、さらに、 別のスタッフがダブルチェックを行う。ベッドサイドに行き、輸血を行う直前に、血液製剤にあるバーコードを、電子カルテに連結されているバー コードリーダーを用いて患者と照合し、合致していたら輸血を行う」といった流れでしょう。実際、病院の輸血手順マニュアルなども、そのような 内容になっています。日本医療機能評価機構の医療安全情報でも、「血液製剤を接続する際には、患者と使用する製剤の照合を行うこと」と注意喚 起を行っています。

――しかし、実際の現場では、マニュアル通りにはいかない。

 はい。一見単純に見える、患者さんと血液製剤の照合は、実はそれほど簡単なことではありません。私は、ある大学病院の救命救急センターで発 生した異型輸血の事故について、公開されている事故調査報告書を基に分析したことがあります。電子カルテシステムとそれに連結したバーコード リーダーによる認証システムが入っていても、事故を防ぐことができなかった事例です。このケースは、現場の業務の複雑さを、如実に物語ってい ます。

 輸血の最後のプロセスである「患者と血液製剤の照合」を実施することにより、それより手前で発生した問題がドミノ倒しのように、後の手順に 波及することを阻止する、もしくはスイスチーズの穴を塞ぎ、事故を防ぐことが期待されています。しかし、このような「リニア(線形)モデル」 を前提とした対策だけでは、現実の複雑でダイナミックに動いている業務を、うまく制御できないのです。

 この病院の救命救急センターには、病院全体で使われている電子カルテシステムに加えて、救命センター専用の電子システムが入っていました。 これは、刻々と状態が変わる患者に対して指示や処置の実施、バイタルサインの記録ができるような部門システムです。「患者と血液製剤の照合」 は、病院全体の電子カルテシステムを使用する場合には、血液製剤のオーダー入力がされていれば、バーコードリーダーを使って照合ができるよう になっており、救命センターの部門システムを使用する場合には、「輸血オーダー」に加えて、医師の「輸血実施指示」が入力されていれば、バー コードリーダーを使って照合ができるようになっていました。

 救急の現場では、例えば、濃厚赤血球液20単位を「オーダー」しても、実際に投与する量とタイミングは、患者の状態に合わせて医師がその場 その場で判断して、輸血実施指示を出すことが多いです。この病院の事例では、担当の看護師が照合を行おうとした時、コンピューターの端末で 「部門システム」が動いていましたが、もう一方の「病院全体の電子カルテシステム」を使おうとしました。この理由について事故調査報告書には 書かれていませんので推測ですが、「救急部門システム」の医師の「輸血実施指示(何単位投与する)」は通常、口頭で出され、リアルタイムには 入力されていない(というか入力できない)ので、部門システムのバーコードリーダーは使えないと判断したのかもしれません。

 ところが、「病院全体の電子カルテシステム」を起動しようとすると、システムの動きが非常に遅くなってしまったのです。実は電子カルテシス テムは既に起動しており、二重に起動してしまったことが原因のようです。その背景には、コンピューターの画面では起動中であることがわかりに くい表示であったことや、また「既に起動しています」といった警告の表示もなかったようです。

 結局、バーコードリーダーは使えず、人力でチェックするしかない事態になってしまった。救命処置中の医師からは、「早く輸血を」と言われ る。電子システムは動かない。外回りの看護師は休憩中で、担当看護師一人にかかっていた業務量やメンタルワークロードは相当なものであったと 推測されます。照合のダブルチェックを行う相手もいない。システムが動かない時には、「従来やってきたように、目視で確認すればいい」という のは簡単ですが、もし、バーコードリーダーで「ピッ」とやる時代に入職した世代であれば、電子システムのない時代のやり方に、すっと切り替え ることができないかもしれない。さらに、「ピッ」という行為には、「医療行為を行ったという記録」や「照合という安全確認」など、複数の目的 が含まれています。しかし、前者としてだけ理解していると、バーコードリーダーが使えなくなった場合に、後で「コンピューターに直接入力しよ う」とは思っても、「目視で照合しよう」ということは思い浮かばないかもしれないのです。

 このように、一見単純に見える「照合」という機能は、利用可能な電子システムや、その前提条件となっている入力情報など、他の多くの機能と 複雑かつ密接につながって(タイトカップリング)、業務の上流で発生した変動が、下流の業務に思わぬ形で影響を及ぼします。

 ある医師は保冷庫から急いで血液製剤を取り出し、いち早く現場に届けた。この時、別の患者の血液製剤が取り出された。保冷庫の患者のネーム プレートは上の棚を示しているのか、それとも下の棚を指しているのか、普段から皆が分かりにくいと感じていた。一刻も早く患者に必要な医療を 提供するため、皆、臨機応変に動いて、患者さんのためにベストを尽くしたのです。いつもと同じように行ったけれども、うまくいかなかったので す。

 下流のプロセスの最後の砦は、確かに患者と血液製剤の照合ですが、「照合の徹底」を周知したり、「バーコードリーダーが使えない場合には、 目視で照合を行うこと」とマニュアルに書いたり、バーコードリーダーの使用方法の訓練をするだけでは、機能しないことは、これまでの多くの事 故が物語っています。

FRAM(機能共鳴分析方法)で用いられる記号の意味 FRAMを用いて表した輸血プロセスの複雑さのイメージ

――警察も、厚労省も、分かりやすいものだけをピックアックして、単純な原因を求めようとする。それでは問題解決につながらないのに、そこに 莫大な労力をかけようとしている。

 血液型間違いは、ヒューマンエラーとして、すごく分かりやすいのです。警察の事情聴取でも「なぜ患者の名前や血液型を確認しなかったのか」 と聞かれる。けれども、何度も言いますが、事故は現場の複雑な業務の中で起きているのです。新しい医療機器や電子カルテシステムが導入された り、それに付随して業務の流れや運用が少し変わっただけで、思わぬところで、予想していなかったような状況が発生するのです。

 安全な医療を追求するためには、現場の業務の複雑さを捉え、将来起こり得ることを予測し、これを制御する方法を本気で考えなければなりませ ん。たとえば、「in
situ simulation」、電子カルテシステムも含めた普段仕事をしている環境で、いつものスタッフとシミュレーションを行い、臨床の文脈の中で知識を獲得 する機会を設けたり、マニュアルにある机上の仕事のやり方(work-as-imagined)と実際の仕事のやり方(work-as- done)の違いを観察し、そのギャップを小さくすることなどが考えられます。国レベルの報告制度では、このように、個々の病院では対応でき ない難しい課題に対する解決策が期待されます。
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