病院経営に株式会社が参入することに日医が反対しているが,その論旨展開に今ひとつ迫力がない.なぜなら,日医の言うことが,利潤追求の態度が良心的な医療を脅かすという,小学校の学級委員(今時,そういう古い名称は使わないようだが)が唱えるお題目の繰り返しばかりからだ.それゆえ,汗水たらして働いてお金をもらって何が悪いという,一見,正しそうな,現実的に思える嘘に負けてしまう.
わかりやすくするには実例を示すに限る.それも,敵の陣営がいつも好んで引用する鬼畜米英の実例がよい.例によって李 啓充先生が,人気絶頂コラム,続アメリカ医療の光と影で,ウォール・ストリート・メディシンと題して典型例を紹介してくれている.それはまさに典型的な株式会社の商売である.商売が病院経営となれば,そのネタは決まっている.人間の命である.株式会社はNPOではない.良質なサービスを提供することが目的ではない.何よりも,株主へ責任を果たすため,利益をあげなくてはならない.そうやって利益をあげた会社が格付けでも高く評価される.2003年になって病院の格付けが流行しだしたが,格付けとは常にそういうこっちゃ.命をどうやって守るかなんてこととは,まるきり関係がない.
利益をあげるためにはどうするか?物の値段を上げるか,コストダウンをするかのどちらかである.市場原理が導入されて,品物の値段を下げこそすれ,上げることなど不可能とすれば,企業はどこへ走るか.そうコストダウンしかない.医者を過労死するまでこき使い究極のコストダウンを実現している現在の日本の医療が,さらにコストダウンに走ったらどうなるか.それがいい結果を生むと信じられるほどおめでたいあなたなら,どんなに兜町医学の被害をこうむったとしても,平然としていられるだろう.