自分の頭の中

TFCでの議論から)

診断推論に関して、私が一番興味を持っているのは、特に優秀な総合医からの紹介を受けた時の私自身の頭の中です.専門分野の特異度が極めて高い状態をつくりあげます.数ヶ月前、都内のある病院の極めて優秀なジェネラリストから、昼間の外来に歩いてきて呼吸困難→挿管となった29才女性について私にメールで相談がありました。1-0で迎えた9回、東京ドームのマウンドに呼ばれたように感じて、霞ヶ関の仕事を定時で切り上げて出かけた先で手短に問診・診察を行なった後、ICUでの病歴(といっても気管切開をしたばかりだったので、本人には直接話を聞けず)と診察所見だけで、重症筋無力症の検査前確率80%以上との結論がどうして導かれるのか、担当のレジデントとそのジェネラリストに対して、すべて言語化して説明できました。なぜ、あそこで内角膝元を攻めたのか、それに対するバッターの反応のどこをどう解釈して、なぜ次には外角高めにはずしたのか、投球の一つ一つの意味が説明できたのです。昨年、麻生飯塚病院でのレジデント達との症例検討会でも、病歴だけで事前確率=診察前確率がいくつか(わかりやすくするために20か、50か、80のどれか)という議論をしましたが、その時も彼らに納得してもらう説明ができました。

優秀な総合医からの紹介のありがたいところは、余計なことを考えずに済むことです.SnNoutが中途半端になっている紹介では、”手足に力が入らない”という訴え一つとっても、肺癌があるとしたら,電解質異常の可能性も考えないとetc・・・こうなると、本来は紹介元で済ませていてもらいたいSnNoutの作業を専門医がしなければならず、診断効率の低下と診断リスクの上昇を招きます.しかし優秀な総合医からの紹介はそういう後顧の憂いなく診断を進められるのです.

このように、SnNoutを柱にした総合医による絞り込みができたあとの、専門医による問診を中心とした診断プロセスならば言語化可能です.それが普段私が使っているリカチャンハウスとプラレールモデルによる日常生活動作問診を始めとする問診戦略を駆使することができます。

こうやって訓練を繰り返していくと、総合医がさらに腕を上げ、専門医への要求水準が高くなり、コンサルテーションを受ける専門医も腕を上げていきます。当初は、”50才男性でパーキンソン病だと思うのだけれど・・・”という一般的な紹介だったのが、”80才女性で右手優位に安静時振戦があるのだが、表情は生き生きしていてとてもパーキンソンには見えない。診断はなんでしょう”といったように、SnNoutを効かせて、より厳しい詰めを要求する紹介になって、専門医を慌てさせるようになるのです。

このように、私と参加者が共に育っていく道場に、コンピュータも参加してもらう形で、コンピュータにも育ってもらう、そんな形で、まずは各分野の専門医による病歴診断シミュレータが開発できないか、そういうシミュレータができれば、専門医の頭の中がわかるとともに、専門医に紹介する場合には、どういう形で渡せばいいのかを自分で考えられる総合医養成→総合医が育てば専門医のレベルも上がるし、専門医の仕事の効率、ひいては地域医療全体の効率も上がる そのための有力な道具になるのではないかと考えています。
 

二条河原へ戻る