一将功不成万骨枯
焼け野原の幸運

その一方で、実は現在のカナダは、大変な薬剤師不足に悩まされています。COVID-19流行初期から激動のときを乗り切った若い世代の薬剤師たちが、人員不足による仕事量増加や、顧客サービスに対するストレスなどからくる薬局薬剤師業務そのものへの違和感を引きずり、結果として職場を去るという現象が起こりました。離職率の急激な増加により、営業時間を短縮する薬局が多く現れ、私の職場も例外ではありませんでした。

コロナ禍で疲弊するカナダの薬局薬剤師たち
  さらに、本質的に問題なのは、薬学生の薬局志向が低下傾向にあることです。カナダの大学の薬学部は、良くも悪くも薬局薬剤師を養成するためのプログラムとなっていますから、ほとんどの新卒薬剤師は即戦力として期待できます。しかし、学生時代から勉強のために薬局でアルバイト経験のある学生や、半年以上の薬局実務実習を修了した学生は、コロナ禍のストレスの多いカスタマーサービスと業務量に嫌悪感を抱き、卒業時点で既に疲弊してしまったように見受けられます。また、私が履修中のFlexPharmDプログラムの中で行われたオンラインディスカッションでは、現役の薬学生が将来の薬局業務に対して興味を失ってしまっているようにも感じました。

 私自身も違和感がないわけではなく、特に昔あれほど憧れた北米の薬剤師の姿はどこへ行ったのだと思わずにいられません。専門の知識や資格を生かした各種クリニカルサービスは、調剤・投薬業務に十分なマンパワーを備えて初めて実現できること。毎日ギリギリの薬剤師人員で、リフィルの調剤がスピード重視のやっつけ仕事のようになってしまっている現状では、コロナ前まで当たり前のように行ってきた予防接種やトラベルクリニック、糖尿病患者への指導等の仕事はままなりません。今から数年後に、コロナ禍の薬局の様子を知らない、夢を持った新世代の薬剤師が現場に出てくるまでは、我慢のときかもしれません。(ポストコロナのカナダから 佐藤 厚=カナダ在住、薬剤師 2022/06/07 日経DI オンライン より抜粋)

カナダでこれである。日本はどうだろうか。薬剤師はそれほどでもない?なぜ「それほどでもない」のだろうか?それはいいことなのだろうか?悪いことなのだろうか?

あれほどの教訓の洪水の中で、溺れかけた記憶がないとしたら、それは失敗から学ぶという環境になかったからではないのだろうか?ジャーナリストや「専門家」がそうであったように。

薬剤師はそれほどでもないとして、看護師はどうだろうか?医師はどうだろうか?保健所職員はどうだろうか?

「コロナとの戦い」に参加したそれぞれの立場で、「この仕事をやっていてよかった」と思った人がどれだけいただろうか?

「コロナとの戦い」なるものが、もし本当にあったとしたら、その戦いにおける勝者とは一体誰だったのだろうか?

「コロナとの戦い」なるものが、、もし勝者なき戦いだったとしたら、誰にでもそこからの豊かな学びを享受する権利があるはずだ。あなたはその貴重な権利を行使する覚悟があるだろうか?

それとも権利放棄して全てを忘れ、何食わぬ顔をして「コロナとの戦い」の前と全く同様に仕事を続けるのだろうか?

「コロナとの戦い」は教育の敗北だった。幸い医学教育も焼け野原になった。もう特高気取りのチンピラどもの目を気にする必要もなくなった。何も北米の薬剤師でなくとも、日本の若手医師にも、教育者としての腕を磨いていく絶好の機会が目の前に広がっている。

一将功成万骨枯 曹松
勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし
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