理ではなく利

拝啓

いつも楽しく拝見させてもらってます。初めてメールする、名古屋の開業医の○○と申します。先生のご意見、興味深く考えさせて頂いてます。抗生物質なんかほんとおっしゃる通りだと思います。

具体的に医者への啓蒙としてどんなことが有効なんでしょうね。感染症について【感染症なんて・・・】って一種見下した態度の医者が多いのも問題のように思います。

とても大切な領域なのに、ないがしろにしている医者たちへの啓蒙など難しい面があると思いますけど、先生はどんな方法がより有効だとお考えですか?

何か具体的な方法、例えば国際内科学会などで本当の医学の進歩を論議とありますが、地道にそういう方法をとるしか方法はないんでしょうか。ゆっくりとしていて意識改革には果てしなく遠い道のりのような気がするんですけど・・。。先生のご意見もっとお聞きしたいです。

敬具

拝復

HPご愛読の上,お手紙までいただきありがとうございました.

早速,何が医者を変えるかですが,医者ばかりでなく,集団としての人間は(理ではなく)利と外圧(脅迫)でしか動きません.古今東西代わらぬ事実です.例えば,抗生物質使用の上限金額を決めるとか,MRSA感染を出した病院や医者は片っ端から訴えられるとか,理不尽なことが起こらない限り変わりません.

個々の医者がどんなに良識を持っていても,集団となれば医者の理も弱まります.医者の集団が相手にするのは患者の集団です.患者の集団は,ごく一部の患者がどんなに勉強していても,所詮は烏合の衆です.烏合の衆相手に理を説いても無駄です.

結局は相手とする患者の方が変わってくれないと医者も変わりません.これは悲観論ではなく,やはり古来よりの厳然たる事実です.

医療の世界だけが特殊なのではありません.私は政治の水準と医療の水準の決まり方はよく似ていると思います.その国の政治の水準は,その国の国民の水準で決まります.政治家は国民が選ぶからです.自分たちが選んだ政治家を他人事のように非難している限り,その水準以上の政治を期待できないのと同じように,肝心のユーザーである患者の方が,”自分たちは医学に素人なのだから,どのお医者さんがいいのかわからない”なんてのんびりしたことを言っているうちは,日本の医療水準は現在のままに止まると思っています.

敬具

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