白い地雷原

今の医学生は,我々の世代と違ってよくできる.特に,プライマリケアや家庭医に要求される臨床に対する情熱と,教育の質に対する選別眼の鋭さには,恐るべきものがある.これはネットワークを介して,大学を超えた情報交換が密に行われているためだろう.全国レベルでの大規模な口コミにより,教育施設の品定めが行われている.マッチング元年だった昨年度に比べ,今年は,実際に,その施設で働いた研修医の評価が下の学年に伝わるから,ますます確度の高い情報が医学生の間に行き渡ることになる.この点を理解できない教育者,教育施設は,厳しい状況に直面するから,必然的に,教育する側が変わらざるを得ないだろう.したがって,マッチングによってまず変わるのは,教育される側ではなくて,教育する側だろう.それが,日本の医学教育を,少なくともこれまでよりはまともな方向に持っていくために役立つだろう.思ったより早く医学教育が変わりだしたし,徒に悲観的になる必要はないだろう.

私は,市場原理導入はまず教育から,で,”勝ち組負け組”について言及したが,上記のような状況下で,本当の負け組とは,自分が負け組なるかもしれないという危機感を抱けずに,ずるずると負けつづけていく,大学ブランド過信組だろう.優秀な臨床医は,病院にとって唯一無二,最強の危機管理ツールだから,それが確保できなければ,大学病院といえども(大学病院だからこそ)白い巨塔ならぬ白い地雷原となる.

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卒後臨床研修 新時代(1)―研修病院       2004-05-06 11:18:42
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学生への情報提供で明暗
     特色作りに奔走する大学系
 
 
 国家試験に合格した新人医師に対する2年間の卒後臨床研修が、本年度から
必修化された。専門教育に偏った大学医局任せの研修を改めようと、全国の研
修病院と研修医をコンピュータで「お見合い」させるシステム(マッチング)
の導入や、初期診療に重点をおいた研修プログラムなど、さまざまな工夫が凝
らされた。日本の医療の転機ともいわれる新制度。不安と期待が交差する現場
の声を聞いた。(3回シリーズ)
 
                  ◇
 
 ■神戸大―国立大離れでも人気
      「先輩」地元医師が発奮、新人迎える
 
 募集定員(80人)をはるかに上回る228人の学生が応募した神戸大学。
同大・卒後臨床研修センター長の杉村和朗教授は、「兵庫県の医師は地元出身
者など地域に密着している人が多い。大学と地域の医師が顔見知りのことも多
く、大都市とは違う独特のプログラムを組もうと考えた」と振り返る。
 
 「大学だけでの研修では魅力がない」という学生の声もあり、早くから大学
本院と市内の病院との間を行き来する「たすきがけ方式」の採用を決定。研修
2年目の6か月間は17の診療科からの選択研修にした。「半年くらいは将来
の目標に沿った研修を受けたほうがいい」との考えからだ。
 
 必修科ではない眼科や皮膚科の志望なら、この6か月を有効利用すればいい
し、内科志望ならば前半3か月は放射線科、後半は形成外科と、興味のある科
を回ってもいい。当初は全く違うプログラムを組んでいた近畿地方のほかの国
立大学も、最終的には神戸大と似通ったプログラムになった。
 
 研修先を決めるまで、学生たちは、口コミやうわさなど、入り乱れる情報に
右往左往させられた。同大の場合は、学生の意見を聞きながらのプログラムづ
くり、インターネットを利用した情報公開などを通じて獲得した「信頼」が人
気へとつながっていった。
 
 もうひとつの目玉は2年目に行われる「地域保健・医療」。厚生労働省から
何ら具体像が示されず、何をやったらいいのかと各大学が頭を悩ませたこの科
目で、幸運にも神戸市医師会の全面協力を得ることができた。
 
 「次の世代の医療を担う若い医師に先輩として支援していく必要があると考
えた」と、熱く語るのは神戸市医師会の松田俊雄副会長。とはいうものの、医
師1?2人の小所帯の診療所が研修医を1か月まるまる引き受けることは難し
いし、どうせなら大学や研修指定病院にはできないような独創性の高い研修に
したい。
 
 そこで考えたのが、脳外科、心臓外科など地域で特殊な機能を担っている中
小の専門病院を拠点にして、診療所、介護施設などを回るプログラム。これだ
と診療所にべったり張り付くわけではないので負担を軽減できるし、研修医に
は脳卒中の発症から回復期のリハビリテーション、在宅への復帰といった、医
療の一連の流れを経験させられる。
 
 「単発的に診療所が研修施設になったところでどれほどの値打ちがあるのか
。多種多様な職種が患者さんの日常性の維持・回復にかかわっている。その連
続性を抜きに地域医療といっても絵空事にすぎない」。介護・福祉職との連携
を学ばせるために、介護の認定審査会にオブザーバーとして参加させたり、医
師会の理事会を見せたりすることも計画中だ。
 
 「(研修医を受け入れると)こんなにメリットがある、などとは言えないだ
けにどれだけ賛同して手を挙げてもらえるか心配だった」という不安をよそに
、市内診療所の1割近くに上る130施設が名乗りをあげた。
 
 ■千葉大―定員割れにショック隠せず
      2年目の中身分からず学生敬遠
 
 神戸大のように定員が埋まったケースは、実はまれだ。「研修有名病院」と
呼ばれる民間の病院が数十倍の志願者を集めた一方で、大学病院、特に国立大
系はほとんどが定員割れした。
 
 東京大、東京医科歯科大と国立3大合同試験を行った千葉大も、「まさかの
定員割れ」。試験の段階では第1志望だけで2・4倍だったのに、ふたを開け
たら106人の枠に75人しか集まらなかった。「もうがっくりですよ」と田
辺政裕・同大医学部附属病院卒後・生涯医学臨床研修部長。国試浪人の割合が
高かったことにも気が滅入った。
 
 同大のプログラムが他と比べて見劣りするわけではない。大学病院で研修す
るメリットとして、豊富な指導経験とともに「研修後は大学に戻り専門医を目
指す」というキャリアパスを明確に訴えた。研修医1人に指導医、指導助手各
1人をつけるなど指導体制も手厚くした。研修医手当ては「ほかより1円でも
高く」と月28万9000円に設定。プログラムも神戸大と同じ「たすきがけ
方式」だ。
 
 反省するならば、2年目からのカリキュラムの中身を学生に伝えなかったこ
とだ。関東近辺の研修協力病院に行くというだけで、何県のどの病院なのか、
そこで何ができるのか明示しなかった。
 
 初めて学生に「見比べられた」結果は、惨敗。同大では今、名誉回復をかけ
て説明資料の見直しや、「研修医部屋」などのアメニティの充実を図っている
。先月中旬には早くも第2期生向けの説明会を開いた。参加は約50人。9月
のマッチング希望順位登録締め切りまで、競争は続く。

(JPN)

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