”僕が医者を辞めた理由”なる題名の本があったが,何も,自分で辞めなくても,医者が医者でなくなる時はいくらでもある.これは職場の内外という意味ではない.同じ病院内でも,外来と病棟では違う.患者さんによっても違う.出たり入ったり,ある時は100%医者でも,その5分後には5%だけだったり,いろいろと使い分けている.年を取れば取るほど,使い分けが狡猾になる.
臨床現場で,医者が医者でなくなるとしたら,一体何になるというのだろうか.教えてあげよう.それは,医学評論家だ.
私自身,重いストレスが迫ってきた時,”自分は医者じゃなくて,単なる医学評論家に過ぎない”という分身の術を使って,逃亡することにしている.分身といっても,二つや三つなんて生易しいものではない.一つの極にはばりばりのお医者様がある.対立する極には,みのもんたの番組に出てくるぐらいの,本物の医学評論家がある.この二つの極,白と黒の間に,連続性のグレーゾーンがあるから,分身の数も無限にある.だから,この術は,伊賀の影丸だって破れないぐらい強烈である.
ただ,使い方を間違えると,たとえ自分がお医者様だと固く信じていても,周囲からは,永久に医学評論家としか認めてもらえなくなる.