面接の達人

今の時代、医学部受験生は、面接の時、医学部志望の理由を聞かれたとき、やはり、“人の役に立ちたいから”なんて歯の浮くような台詞を発する度胸があるのだろうか。私はなかった。もちろん今でもない。あなたはどうだったろうか。

名郷直樹の週間医学界新聞の連載は楽しみにしている。2004年1月19日号の“眼にて云う” も素晴らしかった。
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自分自身が,血を吐きながら死に瀕して,一体どんなけしきを見るだろうか。たぶん悲惨なけしきを見るような気がする。けしきどころじゃない。血の赤しか目に入らないかもしれない。その悲惨なけしきから,患者を救い出すために医者がある。そうじゃないか。しかし,そんな考えが実は大間違いかもしれない,たぶん大間違いだ,そう気づかせる。そう思いはじめると,思い当たることは山ほどある。
(中略)
「医療に恵まれない僻地で」,偉そうに言う自分だってそんなつもりだった。しかし現実はどうか。自分に僻地で何ができたか。こっちが教わることばかりじゃないか。勉強させてもらうばかりで,借りを返すどころか,自分の都合でいつの間にかの都会暮らし。
(中略)
救っているのが患者さんで,救われているのが医者だったりする。
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10年以上現場で働かなければわからないような一つ、一つの文章に、うんうんと頷くようなら、あなたも年をとったということだ。でもそれは,決して悪いことじゃない。

一方,これから,医学部を受けようというような若い人は,まかり間違っても,名郷直樹のような達人の真似をしてはならない.医療者は,常に,”自分は達人ではない”という自覚から出発し,”自分も達人になりたい”という希望に燃え,”自分は達人ではなかった”という認識のゴールへ到達することの繰り返しだからだ.

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