”「治らない」時代の医療者心得帳。カスガ先生の答えのない悩み相談室”には、「棚上げ」という言葉がしばしば出てくる。これは時間を味方にする戦略である。
サッカー(英国ではfootball)では、”ボールを持ちすぎるな”という助言をしばしば耳にする。ボールを持ちすぎたゆえに、無理な位置からシュートを打ったり、相手ディフェンスにボールを奪われたりしてしまうことがあるからだ。ここでいう「棚上げ」とは、自分だけでボールを持ちすぎる弊害を避けるために、意識して”時間という名のチームメートに一旦ボールを渡すこと”だ。
上記の本が手許になくても、内田 樹ー春日武彦対談を読めば,この戦略はすぐに理解できる.
(上記サイトより抜粋)
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内田 時間が経過することによって,取りうるオプション自体が激減するってことですよね。
逆に,結果が出ない段階で変に相手を論破しても,負けたほうはずっとウジウジ根にもって,こっちの仕事を妨害してきたりする(笑)。そんなことになるくらいだったら放っておいたほうがいいんですよ。
僕たちは,無意識のうちに「無時間モデル」でいろんなことを考えてしまいがちです。けれど,時間のファクターを入れるだけで解決しちゃう問題って多いと思うんですよね。先生の本も,時間というファクターを医療の中に取り入れたいうことが,大きな特徴になっているように思います。
春日 それがしばしば,「いい加減だ」とか「無責任だ」というふうにとられちゃうんですが,そうじゃないんですよ。実際,待つことで解決する問題って多いんです。
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時間を味方につける戦略が有効な場面・状況は、診療ばかりではない。日々の生活でも、キャリアパスを考える上でも役立つことは、あなたも経験的にご存じのはずだ。
”時間との戦い”とは、よくテレビドラマやドキュメンタリー番組に出てくる陳腐な表現だが、そこにも認知の歪みがある。この認知の歪みに固執すれば,疲弊し、仕事の効率性は低下し、鬱のリスクが高まるだけだ。時にはこうやって、時間を味方に引き入れてボールを預け、その間に休むなり、別のことを考えるなり、あるいはゴール前の好位置に移動して、シュートの機会を伺ってみてはどうだろうか。