「治らない」時代の医療者心得帳―カスガ先生の答えのない悩み相談室(医学書院):の末尾にある対談でカスガ先生の対談相手である内田 樹(たつる)氏は、「下流志向」を始めとして、いろいろ面白い本を書いていますが、彼の本職(?)であるフランス現代思想の一般市民向け解説書「寝ながら学べる構造主義(文春新書)」
に注目したのは、名郷直樹先生がこだわっている構造主義の解説書を求めていたからです。
この本を読めば、臨床現場での我々の悩みの多くが、構造主義によって理解・説明できることに驚きます。理解したからといって問題自体が解決するわけではないのですが、その問題が発生している背景を理解することによって、その問題から受けるストレスが決定的に違います。これは、得体の知れない症状に悩む患者さんが、医者から納得できる説明を受けて安心するのと同じ事です。
医療における構造主義を本格的に論じた(といっても、構造主義医療論はまだ芽生えたばかりで、多分、22世紀まで延々と続くでしょうが)書が「医師アタマ 医者と患者はなぜすれ違うのか?」 (医学書院)です.
《いまの私たちにとっては「ごく自然」と思われているふるまいは、別の国の、別の文化的バックグラウンドをもっている人々から見れば、ずいぶん奇矯なものと映るでしょう》ということであり、《ABそれぞれの国民のものの見方はとりあえず「等権利的」であり、いずれかが正しいということはにわかには判定しがたい》(「寝ながら学べる構造主義」からの引用)
このような構造主義の臨床応用は、医師・患者関係だけに限りません。国際共同治験時代の臨床試験プロトコール策定や、ICH International Conference on Harmonization of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use (日米EU医薬品規制調和国際会議) 、あるいはコクラン共同計画での議論でも、構造主義を頻繁に使っている というか、この種の集まりは、「臨床という名のプラットフォーム上で行われる構造主義に関する国際会議」そのものです。