文房具王国日本を離れてスコットランドに移った人間が一様に気づくことは, 使っている文房具の簡素さ.僕の働いていた研究所は脳梗塞の実験的 研究をやっていて,その筋ではかなり有名な所なのだけれど,そこで 使っているボールペンは一番簡単なやつ.ほらあのBICのボールペン というやつと同じ.鉛筆もちびたのをナイフで削って使っていたっけ. みんな芯がほんのわずかしか露出してなくて使いにくかったなあ. イギリス人てどうしてみんなあんな削り方するんだろう.鉛筆削り なんて,電動はおろか手動のものもなかった.ノートは表紙が厚手の ボール紙で,日本の大学ノート(あの素朴なノートも見なくなった なあ)よりも質素なもの.コピー機はキャノンのやつだったけど, 日本ではとっくに博物館行きのやつで,縮小,拡大はおろか,紙も A4しか使えない代物だった.はじめは不便に思ったけど,そのうち 慣れてきて,仕事のやり方を文房具に合わせていった.そして仕事の 内容は文房具でぜいたくしていた時よりもかえって良くなった.
余計なものは使うまいとやせがまんしているんじゃなくて,これで足りて いるからいいっていう自然な感じがまたよかった.
ウールワース(注:イギリスの有名な雑貨屋チェーン)あたりで3色 ボールペンとかラインマーカーとか売っていたけど,あんなもの使って いる人はついぞ見かけなかった.たしかになくても済むんだよなあ.
ないと最初は不便に思えるけど,慣れるとその不便さを意識しなくなって ,本当は必要なかったことに気づく,そんな物がどこかの国にはまだまだ 多いんじゃないかなあ.