率直なところを伝える
ー認知症主治医報酬を考えるー
知り合いの記者さんから、「2016年4月に始まったいわゆる認知症主治医報酬(認知症地域包括診療料)について、実際にはこれを取っている人が少ないのはどうしてか?」という問い合わせ受けたました。
> JR東海事故の裁判などを受けて、下手に認知症主治医報酬を取ったら、何か事故事件あったときに主治医にも一定の責任がくるのではないか、だから主治医報酬をとっている方が少ないのではないか、
「うーん、違うと思うんだけどなあ」 とつぶやきながら回答したのが下記です。開業なさっている先生方には失礼な部分があるかもしれませんが、こういう率直な見解を丁寧に伝えていくのが、結局は相互理解とお互いのリテラシー向上に繋がるのではないかと思っています。
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一目で「こりゃだめだ」と思うのが、肝心の算定要件です。
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認知症以外に1つ以上の疾患を持つ認知症患者であって、
(1)1処方に5種類を超える内服薬がない
(2)1処方に抗うつ薬、抗精神病薬、抗不安薬、睡眠薬を合わせて3種類を超えて含まない
(3)疾患や投薬の種類数に関する要件を除いて、地域包括診療料(加算)の算定要件を満たす
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とくに(1)(2)がきつい。「認知症以外に1つ以上の疾患を持つ認知症患者」って、そんなこと要件にしてもらわなくたって、高齢のお客さんにはとっくの昔からたくさんの保険病名がついているものです。
腰痛を訴える認知症患者さんにNSAIDsを出せばデフォルトでPPIが出て(認知症患者さんに痛み止めごときで吐血されたんじゃかなわないと思うのが人情)、必然的に消化性潰瘍の保険病名がつく。これでアリセプト、ロキソニン、タケプロンと3種類。「先生、足のしびれを何とかしてください」と言われてリリカを出す。これに降圧剤を配合剤1種類で何とか5種類に納めたところで、不眠を訴えられればもうアウト。
「ポリファーマシーはやめましょう」「高齢者に向精神薬は危険です」ってスローガンが虚しく響くのは、こういった現場の苦労を敢えて知らないふりをして、大本営がきれい事ばかり言って医者を統制しようと考えているように聞こえるからです。実際そうですし。
私が開業という選択肢を考えないのは、もちろん鞄(お金)も地盤も看板(実家は医家ではありません)もないから、そもそも開業できないというのが第一の理由なのですが、よしんば銀行が何かの間違いでお金を貸してくれたとしても、旧ソ連並の国家統制に左右される業態で借金を返し続けるだけの余生は真っ平御免だという気持ちが強いからです。
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追伸:この議論の背景には、
●医師の父権主義と薬の販売収益への依存構造
●「薬をもらってきた」という言葉に象徴されるような、患者側の医薬品リテラシーの欠如と医療サービスに対する過度の依存(それこそ無駄に医者に行かない、無駄に薬をもらわずに健康管理に留意する)
といった、一層込み入った問題があるのですが、それを論じているとまた長くなるので、今日はこのへんで。
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