雪の降る日に日本脳炎

高気密高断熱の住宅の時代だという.24時間コントロールされた換気システムを使えば,一年中湿度40%,室温20度でコントロールすることが可能だという.これはハイテクの粋を集めたビルディングの話ではない.そこいらの住宅展示場にある,ごく一般的な個人の住宅の話だという.今,そんな住宅が人気を集めて,どんどん建っている.

住まいが便利で快適になると,必ず何かのありがたくないおまけがついてくる.人間にとって居心地がいい環境は,人間とともに生きてきた,ゴキブリ,蚊,はえ,ダニ,にとっても居心地がいい.アトピーや喘息は言うに及ばず,技術の進歩のおかげで,実験室でも難しいレジオネラの培養まで,家庭の風呂場で手軽にできるようになった.

地球温暖化でマラリアの北上が懸念されている.この世界で最も患者数の多い病気の標的に日本も選ばれる可能性がある.ハイテク住宅がマラリア北上に寄与するのだろうか.

雪の降る日に運び込まれてきた意識障害の患者の鑑別診断にマラリアや日本脳炎が含まれるようになるとしたら,それは内科医にとって悪夢以外の何物でもない.

疾患の季節性,地域性をふまえて正しい診断を下すことは内科医の誇りだ.この誇りが,”かつて”という副詞を使って過去形で論じられる時代が来るのだろうか.

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