政権交代による学習の成果
−我々は誰に騙されてきたのか

政権交代とは何だったのかという問いは要らない.我々はその答えを思い知らされたからだ.古い・強烈な記憶ほど鮮明に残りやすいという大原則が当てはまるのならば,アルツハイマー病になっても,我々はその答えを決して忘れないだろう.

かつて我々は,政治家とは,一般市民を騙す能力を持っている生き物だと信じていたものだった.それが当選するために必須の能力だと思っていたものだった.落選するのは,市民を騙す能力が対立候補より足りなかったためだと判断していたものだった.そしてその政治家達を「市民を騙す悪人」として攻撃してきた,新聞に代表される報道媒体を,無能だ・紙くずだと馬鹿にしていた.しかし,報道媒体は無能でも馬鹿でもなかった.

ところが,政権交代は教えてくれた.政治家は決して市民を騙していなかった.ただの馬鹿でも政治家にはなれる,いや,ただの馬鹿こそが政治家になれるのだと,実例を以て教えてくれたのが政権交代だった.

我々はもっと早く悟るべきだった.「私は対立候補よりも清く正しく美しい人間です」 街頭で拡声器を使ってそう喚き散らす人間は,政党名が何であれ,あるいは「無所属」と名乗ろうとも,ただの馬鹿なのだと.実に単純なことだ.馬鹿でなければそんなことを大声で叫べるわけがない.

ではなぜ,我々は政治家が詐欺師ではなく,単なる馬鹿だと気づけなかったのだろうか.もちろん騙されていたからである.では騙したのは誰か?もちろん当の政治家ではない.

我々を騙し続けてきたのは,政治家を批判する報道で売り上げを伸ばしてきた媒体である.「市民を騙して票を集めて当選するのが政治家である.彼らはそうしてり私腹を肥やして市民から搾取してきた.そのあくどい騙しの手口を解明し糾弾するのが我々有能なジャーナリスト集団の使命である」.今でもそれが彼らのスローガンである.

そのスローガンが真っ赤な嘘だったこと.政治家の本質とは,拡声器を使って「私は対立候補よりも清く正しく美しい人間です」 そう街頭で喚き散らすお目出度さ,節操の無さだったこと.それを単純明快に教えてくれたのが,あの政権交代であり,東日本大震災だった.

騙された人間は自分の不明を恥じるよりも,騙した相手を攻撃する.それに対して,詐欺師は「騙されるお前の方が馬鹿なんだ」とは決して言わない.三十六計逃げるに如かずである.それが普通である.しかし,新聞社は決して逃げない.何しろ大東亜戦争の前から世紀をまたいで生き延びてきた組織である.何事もなかったように平気で政治家批判を続ける.

ただし,その論調は新聞社によって異なる.「よくも騙したな」との市民の恨みを少しでも和らげたいと思う新聞は,現政権批判を控える.しかし,政党名が何であれ,あるいは「無所属」と名乗ろうとも,「私は対立候補よりも清く正しく美しい人間です」と街頭で拡声器を使ってそう喚き散らす人間は,ただの馬鹿なのだから,その馬鹿を馬鹿と言えない新聞は影響力を失う.

一方で,政治家には良い政治家と悪い政治家がいて,2009年の総選挙で勝利し,「最低でも県外」と公約し,東日本大震災で東電を恫喝した首相を輩出した政党の政治家は良い政治家であり,その前後で政権を担当した政党の政治家はみんな悪者だったとの単純明快な論調を死守する新聞も,市民を騙してきた点でも,この期に及んでも馬鹿を馬鹿と言えない点でも,他の新聞と五十歩百歩がゆえに影響力を失う.

馬鹿な政治家と馬鹿でない政治家がいるのではない.市民を騙す新聞と騙さない新聞があるのではない.その認識こそが政権交代による学習の成果である.

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