IT時代の総背番号制

体内に埋め込んで個人が特定できるチップをFDAが承認したという記事が,ネイチャーに出ていたことに関連してコメントを求められた.
 

いつも組織の影で、上記の論文やBSE評論家のような、組織本来の
目的以外のいかがわしい仕事を何種類もこそこそやってきた私の心を不安にさせる根
本的な問題のことを論じましょう。

社会において様々な役割を果たしてきた”匿名性”や”偽名性”を終焉させようとす
る動きが、ここでまた勢いをつけそうだということです。IDを植え込むこと自体が問
題ではなく、IDが誰にでも簡単にわかることが問題なのです。マル優預金問題、国民
総背番号制→住民基本台帳ネットワーク、在日朝鮮・韓国人の指紋押捺問題・・・何
度も繰り返されてきた議論を思い出します。私のようにいかがわしいことが好きな人
は、IDで同定される環境を嫌います。清廉潔白大好き派といかがわしさ尊重派の闘争
はいつまでも繰り返されると思っていたのに、この発明のおかげで、私が生きている
うちに清廉潔白大好き派の大勝利に終わるのかな。

出生後、大泉門を通してこのチップを脳内に埋め込むことが義務付けられたら、多羅
尾伴内もかいじん二重面相もルパン三世も日本昔話にカテゴライズされ、ゴルゴ13も
最終回を迎えてしまうだけでなく、もう、監視カメラなんて二十世紀の遺物は不要に
なり、犯罪のない明るい社会ができます。ユダヤ人の胸にダビデの星をつけさせたナ
チでさえなしえなかった偉業です。

”泥棒をやったことのない奴は手を挙げてみろ”と言ったのはトルストイですが、永
遠に輝きを持つと思われた彼のこの金言が、金言でなくなる社会では、私のように、
いかがわしい自身のいかがわしいエイリアス(Windowsの”ショートカット”とい
う、香りのない名称は大嫌いです)をいくつも作ることで生き延びてきた存在は許さ
れないだろうと思うから、こんな素晴らしい発明を知ると不安になるのです。

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