これであなたも病院長?

病院の”経営改革”を唱える方々に,一つ御忠告申し上げておきたいことがある.医療現場の人間は,職人気質で,自尊心が強い.肝腎の現場の職員が納得しなければ,経営面から見てどんなに素晴らしい”改革”も失敗する.

通常,”経営改革”の本質は,人減らしである.仕事のできない奴をクビにする.再建屋の仕事の本質は,クビにすべき人間を見極め,そういう奴らの抵抗を排除することだ.ほとんどの場合,これで人件費は削減できるは,仕事の能率は上がるはで,企業再生一丁上がりというわけだ.

しかし,病院の場合は,全く事情が異なる.仕事をしていない奴なんて,病院内のどこを探してもいないんだ.みんな過労死寸前まで働いている.60を過ぎた副院長も当直している.本当に嫌な奴に対してさえも,こいつが辞めたら,自分の仕事がまた増えると思って,みんなじっと耐えている.そんな状況の中で,誰かをクビにしたり,もっと働けと言えば,優秀な人材から先に辞めていって,後に残ったのはカスばかり,経営改革どころか,病院は機能廃絶に至る.

だから,こういうリスクをそのまま抱え込む”病院長”なんて,誰もやりたくない.だから,昨年,徳島大学病院が病院長を公募した時も,誰も応募しなかった.結局,それまでの病院長が仕方なく応募して続投するという,笑い話が現実に生まれた.

しかし,意地悪ばかり言うつもりはない,ヒントをあげよう.下記に紹介する埼玉県立病院の”改革”は,現場の人間の反感を招いて失敗したこれまでの数多くの”改革”と逆に,看護師を副院長にしたり,機器,人員を減らさずに,逆に増やしたり,不採算医療といわれる児童・思春期精神医療を推進するなど,注目すべき点がある.インフォームド・コンセントは診療にだけ当てはまるもんじゃない.経営改革とて,現場で働く人間の納得が得られなければ,うまくいくわけがない.

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2004年6月18日(金) 情報提供:Japan Medicine(株式会社じほう)
03年度は15億円の黒字 埼玉県立4病院

99年度末からの累積赤字は解消
 埼玉県立4病院の2003年度決算は、単年度収支で過去最高の15億円の黒字を計上したことが、17日までにわかった。この結果、前年度までに残っていた赤字7億5000万円を相殺して、初めて7億5000万円の利益剰余金を生み出した。これにより99年度末に36億5000万円あった累積赤字はすべて解消された。
 埼玉県は3年前から病院改革を進めており、最終年度にあたる03年度の一般会計からの繰入金は、目標だった90億円を下回る89億円となった。繰入金が115億円、累積赤字23億8000万円だった00年度と比較すると、この3年間で約55億円以上の収支が改善されたことになる。病院事業管理者の武弘道氏は、「日本の公立病院では、ほかに例をみないのではないか」と述べ、成果に自信をみせた。
 

医業収益は8.5%増加
 03年度の収入にあたる病院事業収益は、前年度比(以下同)12億5300万円増の335億8100万円。このうち入院・外来診療収益が主となる医業収益は250億9700万円で、8.5%増加した。

 一方、支出にあたる病院事業費用は、5億4800万円減の320億6600万円。うち医業費用は、0.3%増加の301億円だった。入院患者数は36万7300人(1.7%増)、外来患者数43万8140人(5.4%増)で、いずれも過去最高となった。平均在院日数は0.7日減の18.8日、病床利用率は3.9ポイント増加の87.0%だった。

 埼玉県立4病院は、
(1)循環器・呼吸器病センター(江南町、319床)
(2)がんセンター(伊奈町、400床)
(3)小児医療センター(岩槻市、300床)
(4)精神医療センター(伊奈町、120床)。
埼玉県は病院改革に伴い、地方公営企業法を全部適用した自治体に配置が義務づけられる病院事業管理者に、鹿児島市立病院を経営改善した実績をもつ武弘道氏を招いた。武氏は10年以上にわたる経験で培ったノウハウを生かし、競争の激しい首都圏病院の経営改善に取り組んだ。

 武氏は、「この3年間、経営上よいといわれることはなんでも手をつけた」と述べるように、50項目以上にわたり改善を図った。とくに効果があったものとしては、
(1)医薬品や診療材料の共同購入による費用削減
(2)各病院間の連携、外部委託業務の見直しによる費用削減
(3)医師への人事評価制度の導入
(4)4病院で看護師を副院長として登用
―をあげた。

医薬品などは共同購入実施
 医薬品や診療材料は、4病院での共同購入に切り替えた。武氏は、薬や機器の価格が変動していることを指摘。「経営者は価格変化に目をやり、常に状況を知っておかないといけない。それを把握していることが交渉に大きく役立つ」と語った。薬の購入に年間40億円ほど費やしている4病院では、数%違うだけで効果は億単位にものぼり、非常に大きいという。

 検査部門では病院間の連携を強化した。いままでひとつの病院ではできずに外注していた検査を、ほかの病院が請け負うなど、業務の効率・平準化を図った。

 医師には評価制度を導入し、勤務状況によって賞与に差をつけた。副院長に看護師を起用したことで、院内職員の6割以上を占める看護師全員に経営参画意識が芽生えたという。

 外来診療開始時間も、15分繰り上げた。現場が早くなったため、県病院局の職員も15分早く出勤し、意識統一を図っている。

 さらに、各病院ではMRI、CT、リニアックの最新機器を取りそろえたほか、個室希望者が増えてきたことから、個室も28室増やし、患者が快適で最新の医療を受けやすい環境を整えた。

児童・思春期精神医療手がける
 今年度は、「日本の医療に欠けているが、必要なこと」と武氏が指摘する児童・思春期精神医療に力を注ぐ方針だ。精神科救急と合わせた80床の病棟を建設中で、2年後に完成する。小児救急体制もさらに充実させるという。「ますます、サービスのいい医療を提供していきたい」と語り、県外からのいっそうの患者増も見込む。

 武氏によると、経営改善のために、機器を長年使用したり、予算や人員を削減すると、職員の意識が低下するという。武氏の発想は全く逆で、最新の機器を取りそろえ、小児救急部門では人員も増やした。医療の質やサービスを確保することで、たくさんの患者にきてもらい、経営改善を図っていく。「病院経営には、責任をとる人を置くことが必要」と述べ、全国でもまだ数少ない病院事業管理者の重要性も改めて強調した。

 武氏は今年度も繰入金を減らす見込みだ。「繰入金を減らしても、5億円くらいは黒字になるようにしたい」と強気の姿勢をみせる。どこまで繰入金を減らせるかが今後の課題だが、「不採算医療を行う自治体病院にとって、繰入金は必要。金額は診療報酬とのバランスになる」と述べ、診療報酬改定次第で、必要な額は流動的になるとの見方を示した。
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さあて,ここまで読んできて,あなたは,第二の武 弘道を目指す気になっただろうか.できれば,そういう意欲ある人々が続出してくれることを願っている.誰も成り手がいないからといって,間違っても私にどこかの副院長をやってくれなんて,依頼しないように.

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