”最新の治療を提供することが我々の務めだ”こんなセリフ,よく聞きませんか?
新幹線のぞみも,新交通ゆりかもめも,開業当初はよく故障したもんだ.試運転だけではわからない欠陥があったからだ.当たり前だ.技術陣が悪いのではない.からっぽのままの車両を走らせるのと,実際に満員のお客を乗せて運転するのは,全く別世界の話だからだ.
コンピューターと操縦士が喧嘩した結果墜落して,エアバスの欠陥がはじめてわかった.成田からモスクワ経由でヒースローまで,あのとびきり窮屈なアエロフロートの座席に座り続けていた時,使い古したイリューシンならば,悪いところはわかり切っているから,とんでもない事故は起きないだろうと思って耐えていたものだ.
新しいということはすなわちリスクがあるということである.最新の治療を提供するということは同時に未知のリスクも提供するということである.医者は無邪気に新しい薬を使いたがる.子供が新しいおもちゃを使いたがるのと同じで,この習癖は簡単に直らない.ならば教育係たる患者が注意してやらなければいけない.
たかだか数百人が数カ月服用した治験で何がわかるというのだ.中の仕組みがわかっている機械の場合でさえ,実際に使って初めて欠陥がわかる.ましてブラックボックスそのものの人体の場合には,どんな治験を経た薬だろうと治療だろうと,臨床での認可はぶっつけ本番のスタートに過ぎない.