良医を駆逐する人々

医療事故が疑われる証拠保全された診療録をもとに症例を考察する意見書を書いている.資料には家族の疑問点,原告(家族,代理人)事故原因として注目している点も添付されているが,その中で気になることがある.

こういう病気を疑って,この検査をすべきだったのにしなかった点が問題だとする論理展開である.たとえば,腸閉塞を疑って腹部レントゲン写真をとるべきだったのにとらなかった.脳梗塞を疑ってCTをとるべきだったのにとらなかったといった論調である.

このような議論は裁判に勝つのにまったく役立たないばかりでなく,良医を駆逐し,悪医の跳梁跋扈を許す,とんでもない愚行である.良医とは,検査による体の負担と経済的負担を避け,医療資源を節約し,医療費を抑制しようとする医者であり,悪医とは,検査だけやっておけば手落ちを責められないとして,下手な鉄砲数撃ちゃ当たるとばかり,むやみやたらと検査伝票書くだけの防衛医療(*)に走る医者である.

*李 啓充   続 アメリカ医療の光と影 第4回 Defensive Medicine(防衛医療) 週刊医学界新聞 第2487号 2002年5月27日

防衛医療を助長していいことは一つもない.職業人としての思考を放棄した,医療とさえ言えない,ただの消費活動であり,医者の診療技術は向上するどころか低下する一方ばかりだ.数字の判定や写真の判断だったら,機械に任せておけばいい,医者なんていらない.

サービスの良し悪しはひとえに消費者の選別眼にかかっている.建物の大きさや設備の新しさだけに目を奪われて医療機関を選別する医療消費者が多数を占める限り,日本の臨床水準の向上は望めない.

二条河原へ戻る