ロックダウンにエビデンスはあるのか?
-規制のトレードオフの視点から考える-
日本人医師が見たスウェーデンの新型コロナ対策 -カロリンスカ大学病院泌尿器外科・宮川絢子氏に聞く◆Vol.1 2020年6月10日 (水)配信聞き手・まとめ:高橋直純(m3.com編集部)
英国の死亡者数は2020年5月4日現在,28734人,6月10日現在40883人.いずれにせよ,ロックダウンが47万人の命を救ったとなれば,もし,英国が集団免疫を続けていれば50万人が亡くなっていたことになる.ロックダウンをしなかったスウェーデンの人口は1023万人で英国6665万人の15%だから,スウェーデンにおける死者数は50万人X 0.15=7.5万人になっていたはずである.一方,6月9日現在のスウェーデンにおけるCOVID-19による死者数は,4717人,7万5000人の1/15未満である.つまり,この論文はスウェーデンの政策は英国のそれの15倍の効果があったことを示している.一方,人口100万人あたりの死亡数は英国で602人,スウェーデンで467人だから(2020年6月9日現在),都市封鎖をしなかったスウェーデンは英国に比べて,死者を2割以上減らす効果があったことになる.
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欧州のロックダウンが「300万人の命を救った」 英研究 BBC News Japan 2020年06月9日
新型コロナウイルス対策のロックダウン措置によって、欧州で300万人以上の人命が救われたとする研究結果が8日、学術誌「ネイチャー」に発表された.今回の研究は、事業の休業や自宅待機などの対策がなければ、5月4日までに320万人が死亡していたと推計した。つまり、ロックダウンが英国人47万人、フランス人69万人、イタリア人63万人を含む約310万人の命を救ったことになる。
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都市封鎖をしても,そのタイミングが遅ければ,スウェーデンと同じ結果を招くということを示している.あくまで結果論だが,そのまま頑固にロックダウンしなかったとしても結果は同じだったということだ.↓
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英国で新型コロナ死者4万人超え 政府対応に批判の声も 朝日新聞 2020年6月7日
英国政府の5日の発表によると、新型コロナウイルスに感染して亡くなった人は前日から357人増えて4万261人となり、欧州の国で初めて4万人を超えた。政府の首席科学顧問が当初、「死者を2万人に抑えられたら良い結果」としていた人数の2倍となっている。
ハンコック保健相はこの日の記者会見で「私たちみんなにとって悲しい時だ」と述べた。
英国内では、先に感染拡大が広がった欧州各国に比べて行動制限をともなう「ロックダウン(都市封鎖)」に踏み切るのが遅かったことや、3月半ばまで数万人規模のスポーツイベントの開催が許されていたことなど、政府の対応に批判の声が上がっている。一方、人工呼吸器が不足したり集中治療室(ICU)の病床が足りなくなったりする事態は回避されている。
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スウェーデン、ロックダウンせず「多くの死者出た」 政府疫学者 BBC News Japan 2020/6/4
スウェーデン政府の疫学者で、新型コロナウイルスの感染症(COVID-19)対策を指揮してきたアンデシュ・テグネル博士は3日、厳格なロックダウン(都市封鎖)を敷かないという判断によって同国で想定より多くの死者が出たと認めた。スウェーデンでは、新型ウイルスによる死亡率が近隣諸国よりもはるかに高い。国民は国境を越えて他国へ入国することを禁止されている。
テグネル博士は、早い段階でもっと対策を講じるべきだったと、同国の公共ラジオのインタビューで述べた。「我々が行ってきたことについて、改善の余地があるのは非常に明らかだ」
米ジョンズ・ホプキンス大学の集計によると、人口約1000万人のスウェーデンではこれまでに4542人が死亡し、4万803人の感染が確認されている(日本時間4日午後1時時点)。一方、隣国デンマーク(人口約581万人)では580人、ノルウェー(同約532万人)では237人、フィンランド(同約551万人)では321人が死亡している。
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下記の現代ビジネス記事のデータが古いので,6/1現在のデータを見てみる(Worldometersより)と,ピークが高く裾野が狭い感染者数の経過を期待できたはずだったスウェーデンが,期待に反して他国よりも感染者数なかなか減らない(デンマークと比較した感染者数の経過図参照)。さらに(正確な理由はわからないが)回復者数も全く増えないために,医療負荷の目安である死亡者/退院者数比率が一旦改善した後,再度,50%/50%にじわじわ近づいている。ここまで感染が遷延するとは誰もが予想していなかったのではないか。 論より証拠で,いくつかの指標でスウェーデンとデンマークを比較した図(2020/6/1現在)をご覧あれ→ 新規感染者数, 死亡者数, 死亡者/回復者数比率
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スウェーデンの集団免疫、いよいよ「効果アリ」の声が聞こえてきた 現代ビジネス 2020/5/29
多数の人を感染させる集団免疫策は「命を危険にさらす」策だと批判されているが、スウェーデンでのコロナによる死亡率は高くはない。ロックダウンを継続している他の欧州国で、死亡率がスウェーデンよりも高い国はたくさんある。
5月10日の時点で、人口100万人あたりのスウェーデンのコロナ死者数は314(435; 38% up)人である。
ロックダウンを続けている他の欧州諸国を見ると、人口あたりの死者数がスウェーデンより多い国はベルギー751(817; 9% up)、スペイン566(580; 4% up)、イタリア502(553; 10% up)、英国475(567; 19% up)、フランス392(441; 13% up)、オランダ316(348; 10% up)
となっている。3月から完全にロックダウンをした英国(*)と比べても、スウェーデンは好成績だ。都市閉鎖をしないスウェーデンが、他の都市閉鎖をしている欧州諸国より低い致死率であるということは、スウェーデンの集団免疫策は現段階では成功していると言えそうだ。(*池田
注:この表現は正確ではない→さかい もとみ 実は公園も買い物も行けるイギリス「ロックダウン生活」の中身PRESIDENT Online 2020/5/3)
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上記の問題点は既に1か月前に指摘されていた。医療崩壊は起きていないとのことである→スー・キム「集団免疫」作戦のスウェーデンに異変、死亡率がアメリカや中国の2倍超に Sweden's Coronavirus Death Rate Nearly Double That of U.S ニューズウィーク日本版 2020年5月1日(金)しかし、これは裏を返せば、施設に入っていた高齢者を入院させずに、そのまま施設で看取った結果ではないのか?→敗軍の将、兵を語る
参考記事:森田洋之 緊急事態宣言・ロックダウンは効果ない!?〜世界の統計グラフから見える新型コロナ肺炎対策〜
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ロックダウンは必要なかった? 「外出禁止は感染抑制と相関がない」と研究結果 Newsweek 2020年5月8日
<欧州30カ国を対象に、ソーシャル・ディスタンシングに基づく施策が新型コロナウイルス感染症の感染者数や死亡者数の減少にもたらす効果について分析した......>
新型コロナウイルス感染症の感染拡大を抑制するための公衆衛生戦略として「ソーシャル・ディスタンシング(社会的距離戦略)」が世界各国で採用され、欧米諸国の多くは、2020年3月以降、国民や市民、企業の活動を強制的に制限する「ロックダウン(都市封鎖)」の措置を講じてきた。それでは実際、ロックダウンなど、ソーシャル・ディスタンシングに基づく施策は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の抑制にどのくらい寄与しているのだろうか。
外出禁止は感染抑制に顕著な効果が認められなかった
英イースト・アングリア大学(UEA)の研究チームは、英国、ドイツ、フランスなど、欧州30カ国を対象に、ソーシャル・ディスタンシングに基づく施策が新型コロナウイルス感染症の感染者数や死亡者数の減少にもたらす効果について分析し、2020年5月6日、未査読の研究論文を「メドアーカイブ」で公開した。これによると、休校や大規模集会の禁止、一部のサービス業の営業停止は、感染拡大の抑制に効果があった一方、外出禁止や、生活必需品を扱う店舗以外の営業停止は、感染者数や死亡者数の抑制に顕著な効果が認められなかった。また、現時点において、公共の場所でのマスク着用の義務化にも特段の効果は確認されていない。
研究チームは、欧州連合(EU)の専門機関「欧州疫病予防管理センター(ECDC)」が毎日発表している各国の新型コロナウイルス感染症の感染者数および死亡者数と、休校、大規模集会の禁止、店舗の営業停止、外出禁止、マスクの着用といった各施策の各国での実施開始日をもとに、統計モデル「一般化加法混合モデル(GAMM)」で分析した。
感染拡大の抑制と最も高い相関が認められたのは休校だった
感染拡大の抑制と最も高い相関が認められたのは休校だ。ただし、小学校、中学校、高校、大学のうち、いずれの教育機関での休校が感染抑制に最も寄与したのかは明らかになっていない。大規模集会の禁止は、休校に次いで、感染拡大の抑制に高い効果が認められた。研究論文の筆頭著者であるイースト・アングリア大学のポール・ハンター教授は「これまでにも、音楽フェスティバルと関連した呼吸器感染症の発生が確認されている」と指摘。2009年には、欧州の6カ所の大規模音楽フェスティバルのうち3カ所で新型インフルエンザが発生している。
人々が集まるレストランやバー、レジャー施設、イベント会場の閉鎖も感染拡大の抑制に寄与した。その一方で、ハンター教授は「これら以外の業種における営業停止は、感染拡大の抑制にほとんど影響がなかったとみられる」と考察している。また、外出禁止は、新型コロナウイルス感染症の発生率の減少との相関がなく、むしろ、外出禁止の日数が増えるほど、感染者数は増加した。
相関のメカニズムについては解明されていない
一連の研究成果では、各施策と感染拡大の抑制との相関のメカニズムについては解明されていない。また、各国で複数の施策が短期間に次々と導入されたため、現時点では、施策ごとに感染拡大の抑制との因果関係を証明するのは困難だ。ハンター教授は「制限の緩和が欧州で徐々にすすめられるなか、新型コロナウイルス感染症の流行の動向を注視していくことが不可欠だ。そうすれば、施策ごとの効果の有無がより明らかとなるだろう」と指摘している。
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2020/5/4 スウェーデンの意思決定プロセス
「自分は,後出しじゃんけんで自分が選んだ議員の責任を問うような,特異な記銘力障害とは無縁の存在である」 敢えて集団免疫を選択したスウェーデン人達には,そんな自尊心が各個人のレベルで確立しているように思える.この自尊心は決して特殊なものではなく,個々の家庭で育てることができる.そうして育った市民一人一人を前にすれば,当然政策立案者にも緊張感が生まれる.そんな緊張感を持った政策立案者から,COVID-19への対抗手段を実施するにあたって,以下のような説明がなされ,それに市民一人一人が納得していたからと考えれば,集団免疫を選択したのも理解できる.
COVID-19に対しては有効なワクチンがない.従って,我々には,集団免疫と社会的距離という互いに矛盾する二つの手段で対抗するしかない.ところが,集団免疫と社会的距離のトレードオフを考えるに当たり,(ROC曲線のカットオフ値のような)最適な落としどころを見いだす手段がないため,どちらか一方を選ぶことになる.その際,我々が直面している現実は以下の通り.
●限られた(人的・物的)医療資源は,十分な感染症対策が可能な施設に集中的に投入する必要がある.
●また,高齢であればあるほど,合併症があればあるほど致命率が高いので,救命可能性の高い患者の治療を優先することになる.
もう少しわかりやすく言えば下記の通り.
集団免疫を取れば,ロックダウンを選択した時よりもたくさんのCOVID-19患者が出る.その結果,死者も多く出る.それでも医療崩壊を起こさないためには、 現有の医療資源を超える患者を断らねばならない。我が国では全ての市民が平等に医療が受けられる制度となってはいるが、医療資源が無限にあるわけではない.患者が現有の医療資源を超えた場合は、将来ある若者を優先するという,トリアージ(うば捨て山)政策を採ることになる.
そうして政策立案者が提案した集団免疫を議会は承認した.あれだけロックダウンに走った国が多かった中で,敢えて集団免疫を選択し,さらに政策立案者の結果責任を問わないのは,その説明に市民一人一人が納得していた=(心の中で)政策契約書に市民一人一人が承認の署名をしていたからだ.
インフルエンザで3325人が亡くなっても緊急事態宣言が出なかった理由
今回はスウェーデンとデンマークで選択肢が分かれたが,それはワクチンも治療薬もなかったからだ.良いワクチンや治療薬ができれば,集団免疫はもちろんロックダウンも不要となる.さらに,介護施設での看取りに対して,家族も職員も納得できる.ワクチン,レムデシビル(激しい開発競争の結果,来年はもっと良い薬が出ている)と手は尽くしてきた.これだけの高齢の患者さんを今から転院させて人工呼吸器に繫いでも救命の望みは限りなく低い・・・・
そう,この光景が既にインフルエンザで実現している.だからこそ,2018-19年の冬,日本国内で3325人がインフルエンザで亡くなっても(*),例年通り,大相撲も,春の高校野球も,Jリーグも開催されたし,パチンコ店も,ライブハウスも繁盛していた.(*対100万人当たり26.それに対して日本におけるCOVID-19での対100万人当たり死亡確定数は2.6と,インフルエンザの1/10となっている(2020/5/3現在) そして合衆国では,2019-20年のシーズンは1万2千人,17-18年のシーズンには6万1千人がインフルエンザで死亡しても,大統領は"business as usual"であり,彼がインフルエンザに初めて言及したのは,2017年1月の就任後3年余り経った2020年3月31日だった.『わずか1週間前には、トランプ氏はCOVID-19についてインフルエンザのようなものだとしていた。初期の死者数は、インフルエンザや自動車事故の死者よりずっと少ないと述べていた』
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2020/4/29 ロックダウンにおけるトレードオフを考えさせる記事
異例の新型コロナ緩和対策奏功 国民に責任行動を促したスウェーデン(SankeiBiz 2020.4.27)
ロックダウン(都市封鎖)などの厳しい措置や「スウェーデン方式」の中で、どの戦略が最終的に新型コロナ対策として最も効果的となるのかは分からず、同国の専門家も結論を出すのは時期尚早だと述べる。ただ、ロックダウンに伴う経済的打撃が甚大となる中、スウェーデンの取り組みには世界中から強い関心が寄せられている。
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2020/04/20:スウェーデンを失敗例と片付ける
ことは困難
スウェーデン、ロックダウンせず新型コロナ対策成功か 疫学者が主張「5月中にも集団免疫獲得」(ENCOUNT 2020.04.20)
『スウェーデンではロックダウンすることなく、新型コロナウイルスの感染拡大防止に努めている。しかし、現時点でスウェーデンでは新型コロナウイルスの感染
者数は1万4385人となっており、そのうち、1540人が亡くなっている。しかし、スウェーデン公衆衛生局の疫学者アンダース・テグネル氏は「全体的な戦略の失敗ではありません。介護施設に住む高
齢者を守ることに失敗したからです」と自身の考え方を明かしている』
池田注:スウェーデンがロックダウンを行わなかったことの妥当性を考える上で考慮すべき点としては、
1)スウェーデンにおける季節性インフルエンザによる死亡者数は2016-17で731、17-18で1021、18-19で505で、COVID-19による死者が特別に多いというわけではないこと(インフルエンザの死者数が平年並みの2-3倍になるのは例外的ではない→日本日本における季節性インフルエンザによる死亡数の推移)。
2)ロックダウンで市民生活に強権的な生活制限を強いることのトレードオフ。
3)当初,スウェーデンと同様にロックダウンを行わないとした英国が,その後の泥縄ロックダウンを行ったにもかかわらず,医療崩壊に陥ったこと(*).
4)ロックダウンを欧州主要国でスウェーデンよりも低い単位人口あたり死亡数を示しているのは少数派(20/4/20現在、スウェーデン156/100万に対し、デンマーク63、ドイツ58)であり、ロックダウンを行いながらもスウェーデンを上回る単位人口死亡数を示している国(20/4/20現在、イタリア399、スペイン
466、フランス310、英国
243、オランダ219、ベルギー503)が多数派
5)スウェーデンよりも低い対人口死亡数を示している他の北欧諸国(ノルウェー,フィンランド,アイスランド)の評価は,国外からの交通を遮断するand/or社会的距離を保つこれらの国々の特性,すなわち地理的障壁(海,山岳地帯,広い湖沼地帯や森林)や低い人口密度(アイスランド,ノルウェー,フィンランドはそれぞれ,欧州の中で人口密度の低さで1位,2位,3位を占める)を踏まえた上で評価されねばならない.
*集団免疫論に惑わされた英国の悲劇 EU離脱の影響配慮が裏目か 米研究所が死者6万6000人の予測←これは誤りである.英国の失敗は集団免疫論の敗北ではない.NHSを破壊させた政治家の責任である.(「ブレグジットは富の配分の問題」と言った天才物理学者、ホーキング博士の最後の闘い)
以上を踏まえると,第三者が「スウェーデンの施策をロックダウンしなかったことの失敗例と結論し→ロックダウンに本質的な意義を見いだす」
ことはできない。その上で,ロックダウンをしないと決断した当局の判断をスウェーデン国民がどう判断するかが次の問題である.
政治はサッカーの試合とは違う(お前が言うな!)。他国との比較による勝ち負けでは判断できない。最終的な判断は国民に委ねられる。自分達が選挙で選んだ議会が決定したことに対して,政治家や行政に結果責任を問うことは、スウェーデン国民が最も嫌うところである。そこが,2018-19年にインフルエンザで自国民が3325人も死んでも,三密の典型である大相撲に「待った」がかからなかった事実,及び満員電車やパチンコ屋を放置しながらもオーバーシュートとやらが起こらなかった事実の説明責任を誰にも求めない某国民の皆様との決定的な違いである.COVID-19に関して,勝ち負けを論じるならば,正にこの「国民性」の問題が最重要点である.ここでも我々はCOVID-19に試されている
芳子 ビューエル 封鎖なし「スウェーデン」異色の緩い対策のワケ 国民の「常識」はコロナと戦えるのか(東洋経済オンライン 2020/04/15)
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2020/4/13:デンマークの勝利?それでもなお残る問題:2週間後,4/13の時点では,100万人あたりの感染者数/死亡数では、デンマーク 1091/49、スウェーデン1084/91で,感染者数に明らかな差はないが,スウェーデンの死亡数がデンマークの1.86倍で,1週前より差は広がっている.そして,医療崩壊の指標である退院・死亡比のグラフも,スウェーデンが死亡数が退院数よりも多くなる逆転現象=医療崩壊が3月10日に始まり,3月19日に一旦挽回できそうに見えたが,その後再び死亡数が多く,医療崩壊が現在も継続している.一方,デンマークは3月13日に一旦死亡数が退院数が上回ったが,3月31日以降,再逆転して,退院が死亡を上回るようになった.つまりデンマークの医療崩壊は2週間程度の一時的なものだった.
こうしてみると,デンマークの勝利が確定したかのように見える.それでも,疑問が全て解決したわけではない.人口当たりの感染者数が同じなのに,なぜ,人口当たりの死亡者数がダブルスコア近くなってしまったのだろうか?やはり,検査数がスウェーデンの方が少ないために,感染者数を低く見積もっていたからだろうか(スウェーデンの人口(1023万人)はデンマーク(560万人)のほぼ2倍なのに,検査件数はスウェーデン54700件,デンマーク72099件と,人口当たりの検査件数にすると,デンマークがスウェーデンの2.4倍多くなっている) イタリア,フランスでロックダウンが失敗したのは,それが遅かっただけで,デンマークのように,前もって十分な検査体制を敷いた上で,感染者数がわずかな増加を
示した時点で,果断なロックダウンを行い、市民がそれに従えば(とまあ、随分と条件がつくのだが)、医療崩壊は一時的なものに留められるというエビデンスを示したように思える.
もちろん一方で回答が出ていない問題も残る.
●では一体いつまでロックダウンを行い,どのようにして解除していくのか?
●大都市で有効なのは直感的にわかるが,その「大都市」とはどのような規模・人口密度なのか?一千万?300万?30万?
●満員電車(それでも乗車率は35%に減ったのだが)とパチンコ店をいまだに抱える某国の大都市は、法整備さえすればロックダウンの対象になるのか?
●ゆる~いゆる~い「タイ式緊急事態宣言」で完全試合(医療崩壊一度もなし)で新規患者数がピークアウトを迎えようとしているタイをどう考えるのか?
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2020/4/8:デンマークリードを広げる:1週間後の4/8の時点では,100万人あたりの感染者数/死亡数では、デンマーク
875/35、スウェーデン762/59で,感染者数に明らかな差はないが,スウェーデンの死亡数がデンマークの1.7倍になっている.これが本当にデン
マークの「勝利」を意味するのかは,復活祭開けの4/13に予定されているデンマークのロックダウンの解除以降(Austria and Denmark are planning to lift their coronavirus lockdowns)両国の感染動向を見極める必要がある.
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2020/4/1五分五分:肝心のアウトカムを二国間で比較すると??2020/4/1現在,100万人あたりの感染者数/死亡数では、デンマーク494/16、スウェーデン436/18で,正に五分五分。高齢化率はデンマーク19.8%,スウェーデン20.1%でこれも五分五分.
デンマークとスウェーデンを繋ぐ長さ7845mのオーレスン・リンク(橋)がすったもんだの末ようやく開通したのは、2000年7月。ヨーロッパ最大の鉄道道路併用橋で受賞歴もあるとのことだが,そんなに大変な工事だったのか?その12年も前に完成した鉄道道路併用橋である瀬戸大橋の長さはオーレスン・リンクの1.5倍12300 mなんだけど。それっぽっちの距離なのに21世紀直前まで橋が架からなかったのは、隣国同士、現在でもあまり仲が良いとは言えない。19世紀まではしょっちゅう戦争していた(世界史の窓 デンマーク).そんな間柄だから政策も大いに違う。例えばデンマークは移民を厳しく制限する一方、スウェーデンは移民に極めて寛容的(移民に市民権を与え働いてもらって税金を払ってもらうという国策)
COVID-19対策でも両国の間には大きな違いがある。デンマークは3月11日開始した国全体のロックダウン(3月14日には国境閉鎖)を4月13日までに延長することを決定済み。それ以降は徐々に解除の予定.一方、スウェーデンは、デンマーク、ノルウェーといった北欧隣国から見たら「ゆるゆる」。国境も閉鎖していない。しかしそこには政策に対する説明責任が明確で、しかもそれを国民がしっかり支持している。(「日常をできるだけ維持する」スウェーデンのコロナ対策).フランス人はスウェーデンをうらやましがっている?
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都市封鎖、現実に可能? 専門家「法的根拠ない」 ロックダウン 共同通信 2020年4月1日
新型コロナウイルス感染症が拡大し続ける中、3月下旬に入って、東京都の小池百合子知事や安倍晋三首相らが急に「ロックダウン(都市封鎖)」について発言で触れるようになった。爆発的な患者急増が起きたイタリアやスペインなどで実施されたが、強制的な外出禁止を定めた法規定は日本にはない。専門家は「法的根拠がない」と発言を疑問視している。
「感染の爆発的な増加を抑え、ロックダウンを避けるために不便をお掛けするが、ご協力をお願いしたい」。小池知事は23日の記者会見でこう呼び掛けた。都内の感染者数が急増した25日夜も「何もしないならロックダウンを招いてしまう」と発言。記者から具体的なイメージを問われ「海外などいろいろな例を参考にするが、未経験なので、どのような形が必要か国の方針も聞いていきたい」と言葉を濁した。
▽デマ
27日の参院予算委員会では、安倍首相も「仮にロックダウンのような事態を招けば、わが国の経済にもさらに甚大な影響を及ぼす」と述べた。
「4月2日に実施」とのデマも広がり、菅義偉官房長官が30日、記者会見で「事実とは違うと明確に申し上げる」と否定した。
ロックダウンは一定期間、都市を封鎖したり、強制的な外出禁止や生活必需品以外の店舗の閉鎖をしたりする強硬措置を指す。中国・武漢が列車や航空便を停止するなど、都市を事実上封鎖して一定の効果があったとされ、日本でも実施を探る動きが出ているようだ。
しかし、海外と同様の対応は現実的ではない。14日に施行された改正特別措置法(新型コロナ特措法)で「緊急事態宣言」をしたとしても、興行施設の使用制限や医薬品や食品の売り渡しを事業者に求めることはできるものの、市民の外出自粛は要請にとどまる。
▽無責任
九州大の南野森(みなみの・しげる)教授(憲法)は「小池知事には危機感を訴える意図もあったのだろうが、海外のような罰則付きのロックダウンは法律上、日本ではできない」と指摘。その上で「言葉が独り歩きし、SNSなどで話題になっている。できないことを口にする手法は法治国家の政治家として無責任で、危うさを感じる」と批判した。
特措法の国会審議に参考人として出席した同志社大の川本哲郎(かわもと・てつろう)教授(刑事法)は「日本は要請に協力的な国民性なので、緊急事態宣言すら出てなくても足りるのではないか。感染流行が長期にわたれば罰則を盛り込んだ法改正を検討する必要性も生じるだろうが、それはあくまで最後の手段」とくぎを刺した。
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