小児の診療の時は、保護者というプロキシを常に意識するわけですが、1人で来院した成人の場合には、普通は意識しません。ですから、プロキシは医療面接を巡る議論でも無視されています。
お告げの研究で,救急外来におけるプロキシの重要性にちょっと触れたことがあります.救急ではなくて、神経難病の初診外来のような時間をかける外来では、診断もさることながら,さらに、複雑な数々のタスクが待ちかまえています。(プロキシの観察や言動・行動が診断に様々な影響を与えることはもちんで、ここはここでまた面白い分野なのですが、長くなりますので、また別途)
たとえば、
○本人とプロキシ(初診の場合には、配偶者だけでなく、子供や兄弟で、プロキシの数が複数になることもしばしばです)の間にある、解釈モデルや懸念事項の乖離の程度を見極めて、それを埋めていく作業
○両者の話から日常生活場面での困り事を推測する作業
○それまでの両者の歴史から生じる反感を減じて、病をきっっかけに(病を愛の資源として!!)協力関係を作りあげていく作業といった具合です。
こういった作業は、自分が三谷幸喜以上の(才能は彼の方が上ですが、現実のシナリオに基づいているという点で彼以上)脚本・演出家になった気分で、実に面白いのですが、その面白さが未だ十分に語られていません。21世紀から22世紀の教育・研究の標的はまさにここにあると考えています。
一方,医療面接におけるプロキシが関係する差し迫った問題として,次のような事例が挙げられます.
【日経メディカル メール 2008.6.6】から:
分娩経過観察のために内診した男性産婦人科医に対して「セクハラだ!」と
抗議議する夫。陣痛で痛がる妻を見て「こんなに痛がっているのに何もしてや
れないのか」と苦情を言う夫――。モンスターペアレントのハズバンド版とも
いえる事例が増えているそうです。竹中氏は、このような風景が生じる背景に
は、子供が生まれることが非常にレアな状況になっている小子化社会があると
推測しています。医療側も実際的な戦略構築が重要になりそうです。
◆6.3 モンスターハズバンドって何?―新しい論点を読む
〔from 竹中郁夫の『時流を読む』〕
この竹中の論説には,医療面接でのプロキシの問題の他に次のような論点が含まれる
○家庭・地域での行動科学教育における「力点の変化」(以下の現象を「教育力の低下」と率直に表現すると,すぐさまクレームをつけるような勢力の増長):妻のお産の時でも仕事をしていたような男性の絶滅→「ロールモデル」の消失→その影響をもろに引き受ける羽目になった医療現場
○「全ては患者様のために」という誤ったメッセージを発信し続けて自分の首を絞めている医療機関,医療者達→誰がモンスター患者を作っているのか,患者様を馬鹿にするな
(そう言えば,「患者様の元に新薬,新医療機器をより早く届ける」って使命を大々的に宣伝しているところもあったよなあ.あっちも○○崩壊なんてことにならなきゃいいんだが)