AIが得意な論文・不得手な論文
−そして新聞社が決して潰れない理由−
2019/7/21
参考:
AIが書く新聞記事
電カルから退院サマリーの自動生成
図書館情報学の窓から [第2回]来るべき,AIが学術論文を書く未来のために
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「学術論文」と一口に言っても,様々な種類がある.AIは所詮人間が創り出したものである.だから,万能の神どころか,人間の限界を超えられるわけではない.AIが人間より得意なのは,ただ,「仕事が早い」というだけである.後は全て人間がお膳立てしてやらなければ,ただの箱である(*).だから医学論文の中でも,AIがどう寝転がろうと逆立ちしようと絶対に書けない論文と,(質はともかく)AIの方が早く仕上げる論文とがある.
*人間がお膳立てしてやらなければ,AIは論文どころか添付文書一つ読めない
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Shimazawa R, Kano Y, Ikeda M. Natural language processing-based assessment of consistency in summaries of product characteristics of generic antimicrobials. Pharmacol Res Perspect. 2018;6:e00435. doi: 10.1002/prp2.435.
総説は書ける.原著は駄目
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(記事抜粋)現状,論文データへの自由なアクセスは,主として商業出版の仕組みと著
作権制度によって阻まれています。このうち権利の点については,米国は著作権制度にフェアユース規定があることでクリアでき,この規定がない欧州でも制度
の見直しが図られています。ただ,有料雑誌にアクセスできないことには話になりません。
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↑ これは重大な障壁のように見えるが,所詮は人間が設定している規制だから,人間の手で取り払える.一方,自然言語処理に内在する限界が垣間見えるのが,次の点である.
AIが書いたこの本の目的は,「リチウムイオン電池に関する研究動向をまとめる」ことにあった.読者は(AIが執筆した本とはどんなものか読んでみたいという一部の好
奇心旺盛な人を除き)「リチウムイオン電池に関する研究動向」に関心のある人である.そういう人の要求に応える内容にする必要があった.ところが AI自身はリチウムイオン電池に関する研究に携わったことがない.リチウムイオン電池研究者にインタビューしたこともないし,一緒にお茶を飲んだこ
とさえない.そんな,リチウムイオン電池研究に関して全くの「ど素人」のAIが,リチウムイオン電池研究の専門家に変身するためには,膨大な量の論文・書
籍を読むしか手立てがなかった.
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(記事抜粋)中身はタイトルの通り,スマートフォンにも用いられるリチウムイオン電池に関する研究動向をまとめた大部の文献レビューです。重要性が増している技術だけに関連研究も盛んで,過去3年における関連研究の出版点数は5万3000本以上,まさに読み切れないほどであることから,この分野がBeta Writerの最初のターゲットとして選ばれました。
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↑ ここには,AIに執筆させた理由として,「5万3000本もの論文・書籍を読むのはAIにしかできない」を挙げている.確かに「AIにしかできない」というのは事実である.しかし,(故意か否かは別として)もう一つの事実「5万3000本もの論文・書籍を読まなければ論文が書けない」が示されていない.
AIは,自分の書く論文で博士号を取ろうとか,教授になろうとか,研究費を取ってこようとか,そのようなことは一切考えない.だからAIの書く論文は捏造やデータ改竄などとは一切無縁である.AIができることと言えば,ただひたすら,何万何千もの論文,書籍をひたすら読んで総説を書くことだけだ.そんな総説は独創性とも一切無縁である.だからAIにはOriginal Researchは書けない.
システマティック・レビューはAIにお任せ!!
一方,AIが得意とする医学論文もある.それが,systematic reviewである.現在,International Collaboration for the Automation of Systematic Reviews (ICASR)を中心に,AIによるsystematic reviewの作成プロジェクトが進められている.このプロジェクトのこれまでの歩みについては,以下を参照.
O'Connor AM, Tsafnat G, Gilbert SB, Thayer KA, Shemilt I, Thomas J, Glasziou P, Wolfe MS. Still moving toward automation of the systematic review process: a summary of discussions at the third meeting of the International Collaboration for Automation of Systematic Reviews (ICASR). Syst Rev. 2019 Feb 20;8(1):57. doi: 10.1186/s13643-019-0975-y.
Beller E, Clark J, Tsafnat G, Adams C, Diehl H, Lund H, Ouzzani M, Thayer K, Thomas J, Turner T, Xia J, Robinson K, Glasziou P; founding members of the ICASR group. Making progress with the automation of systematic reviews: principles of the International Collaboration for the Automation of Systematic Reviews (ICASR). Syst Rev. 2018 May 19;7(1):77. doi: 10.1186/s13643-018-0740-7
ここからが本題:
医学論文に比べて新聞記者は,はるかに大変(そして新聞社は楽)である.
『3本勝負の結果は、お互いに1勝1敗1引き分け。全体で引き分けとなった。人間の威
厳を少しは保てたかなと思い胸をなで下ろす。しかし、この1日にAI記者によって書かれた記事は70本。人間記者は3本。記事内容で引き分けでも、分量で
はとうてい勝ち目が無い。AIの精度が今後さらに高まると、人間記者の居場所は業績速報に関しては確実に縮小するだろう。』(AI記者に生身の記者が勝負を挑んでみた 業績ニュース早書き対決で感じた危機感 日経ビジネス 2017年2月3日)
関連記事:日本経済新聞社、AIを活用した「決算サマリー」の配信スタート(2017/01/26)
一般紙やスポーツ紙に至っては,全部AIに任せればいいから,記者なんか要らない.人件費がゼロにできるわけだから,どんなに購読者数が減ったところで,全国紙の経営はびくともしないだろう.「高校野球の戦評記事」書く“AI記者” 朝日新聞社など開発(2018年08月16日)
では,電カルから退院サマリーを自動生成するシステムの開発はどうなっているだろうか?以下が公開されている参考資料です.(2019/8/9現在)
電子カルテテキストを自動臨床データベース化する要約システムの開発 人工知能学会研究会資料 2018;6 (1):01-06-01-02
退院時要約自動分類器の構築 人工知能学会全国大会論文集 第31回全国大会(2017) →PDF
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