労働安全衛生法では,50人以上の従業員を抱える事業所では産業医を定めて,この産業医が職員の健康管理をしなければなりません.さて,ここで問題です.私の勤めている国立病院には306人の職員がいますが,これまで産業医がいたことがあ りません.さて,厚労省の部局であるこの国立病院は,これまでずーっと厚労省が決めた労働安全衛生法第十三条に違 反し続けていたのでしょうか?
回答:公務員は労働者と認められていないので,産業医を置く必要はない.
解説:労働安全衛生法は,50人以上の従業員を抱える事業所では産業医を定めて,この産業医が職員の健康管理をすることを義務付けている.しかし,国家公務員法により,勤務条件は人事院が所轄する.人事院は,”国営企業及び特定独立行政法人の労働関係に関する法律”を拠り所に所轄するので, 国立病院には労働安全衛生法や労働基準法は適用されない.公務員の健康管理については,人事院規則に従い,各省が定める「職場」単位で,ただの医者を”健康管理医”なるものに選任する。
余談(そもそもの話):先日,事務方が,臨床研究部生化学室長(専任)に対し,”健康管理医”になってくれと電話一本で頼んできました.職員の健康管理はこれまでも実質的にはずっとやってきた仕事ですが,何か正式に本省に届け出なければならない理由ができたらしく,初めての正式依頼でした.以前の狂牛病に関するTV出演で,当該部署とすったもんだしたこともあったので,今回もきちんと落とし前はつけなくてはいけないと思い,直接その部署に乗り込み,
”検診のデータを見てはんこを押すぐらいのことは,臨床研究部生化学室長でもできますが,職員の健康管理は,本来は産業医の大切な仕事なのですよ”と言うと,課長補佐も課長も鳩が豆鉄砲食らったような顔をしているので,
”労働安全衛生法では,50人以上の従業員を抱える事業所では産業医を定めて,この産業医が職員の健康管理をしなければなりません.しかし,私には産業医の資格がないのです.306人もの職員を抱える当院では,今までどなたが産業医をなさっていたのですか?”とまで言っても,まだ押し黙ったままでした.
厚生労働省が定めた法律を厚生労働省の部局が守れないという事態なのか.日本は法治国家なのか?それとも,大赤字の国立病院療養所ではコスト減を目的に職員の健康管理を犠牲にしても良いという”通達”が,例によって,別にあるのか?・・・と,意気込んで,懇意にしていただいているその筋(本省のさる課長さん.先日のTV放映騒動の時も,この方に相談して,大分助けていただきました)の方にメールで尋ねました..さすがにその方もすぐにはわからず,わざわざ人事院まで問い合わせてくださって(!!)判明したのが上記の回答でした.
あくまで,官が上で民が下,民間は税金を使ってお上が監視するが,お上はお上自身がチェックするという建前ですね.民間では産業医という資格が質を担保するのに,国立病院では,病理解剖当番を兼ねる生化学室長が,職員健康管理の責任者という実態は,国立の施設では,民間よりもはるかに人員削減が進んでいる証拠であり,納税者に対する絶好のアピールになります.そういうテレビコマーシャルなら,出演も許してくれるかな?