(日経メディカルオンライン 2016年4月)
これは明治39年(1906年)に制定された旧医師法施行規則第9条です。現行の医師法第21条(以下21条)の条文は、文語体が口語体に、「異常」が「異状」に、「四箇月以上ノ死産児」が「妊娠四月以上の死産児」に改訂されただけです。
2016年2月24日、日本医師会(以下日医)は、6月末までに予定されている医療事故調査制度の見直しに合わせて、今年で満110歳を迎える21条の条文も見直すべきだとの見解を公表しました。現行条文で「異状があると認めたときは」あるところを「犯罪と関係ある異状があると認めたときは」と改正し、併せて33条の2(罰則)から21条違反を削除するというものです。
この改正は「1990 年代ごろから、厚生労働省・警察などによる本条の不適正な解釈運用に起因して発生した医療界を含めた社会的な混乱を鎮静化し正常な状態に戻す方策」であるとのことですが,これはとてもおかしな話です.なぜなら,この110年間,条文は変わっていないからです.条文とは関係なく起こった出来事が,条文「改正」で「鎮静化」するわけがありません.
21条は「改正」の必要なし
そもそも司法が関与しない制度設計になっている医療事故調査制度の見直しと21条とは何の関係もありません。さらに、以下に述べるように、診療関連死を警察に届出る必要のないことは既に明確になっています。
第一に、21条の条文を適切に解釈した都立広尾病院届出義務違反事件の最高裁判決(2004年4月13日)により、診療関連の死亡事故が発生したからといって医師が警察署に届出る義務はないことがすでに確定しています(「医師法21条」再論考―無用な警察届出回避のために)。第二に、「医療過誤によって死亡または傷害が発生した場合、またはその疑いがある場合には、施設長は、速やかに所轄警察署に届出を行う」と記載されていた、厚生労働省による「リスクマネージメントマニュアル作成指針」(2000年に当時の国立病院等向けに作成)はすでに失効したことが明らかになっています。第三に、2015年3月には,これも厚生労働省の「死亡診断書記入マニュアル」が改訂され、診療関連死や医療過誤は全て警察への届出が必要であるとの悪しき誤解を招いてきた記述が削除されました(「医師法21条」の誤解、ようやく解消へ)。
以上からわかるように、21条を「改正」する必要はどこにもありません。それどころか、提言にあるような「改正」は、警察への届出が白日の下にさらしてきた医療事故に関する根本的な問題を全て「なかったことに」してしまうのです。
警察への事故届出が暴露した問題の数々
事故を警察へ届出たのは、事故原因となった数々のシステムエラーを放置してきた施設長・病院管理者でした。その届出を受けて捜査を行ったのは、脈の取り方一つ知らない警察官でした。人身御供にされた末端の医療者だけを起訴し公判を取り仕切ったのは、診療録の読み方一つ知らずに専門医をやぶ医者呼ばわりする検察官でした.その検察官のいいなりになった裁判官の出す判決は、事故原因となった数々のシステムエラーを業過罪とすり替えることによって隠蔽してきました。
警察や検察に媚びへつらう旧主流派マスメディアは,こういった根本的な問題の数々に対し完全黙秘する一方で、ウログラフィン誤使用事故報道で見られたように、扇情的な報道で末端の医療者を罪人として血祭りに上げて社会的に抹殺し、ヒューマンエラーこそが事故の本質的な原因であるとのデマを垂れ流すことによって、患者家族、そして市民に対して医療事故問題の真相を隠蔽し続けてきました。
さらに,たとえ21条の条文を添削したところで、診療関連死が犯罪として届出られる「抜け穴」は残ります。北陵クリニック事件でも末端の医療者が社会的に葬られましたが、その発端は、「官吏(注:国家公務員)または公吏(注:地方公務員)はその職務を行うことにより、犯罪があると思料するときは告発をしなければならない」と規定する刑事訴訟法239条第2項に基づき、某国立大学法医学教授が行った告発でした(関連記事)。21条の条文をいじくってみたところで,届出が明らかにした問題は放置されたまま.さらには診療関連死が犯罪として届出られる可能性も残される.だとすると21条「改正」論の意図は一体どこにあるのでしょうか?
法令の条文は何ら変わっていないのに、利益相反と自己都合で勝手な解釈を加えて「法令遵守」を主張した裁判真理教信者達.その信者達の言いなりになって「粛々と」事故を警察に届け出てきた.そんな自分の立場がいよいよ怪しくなったので,条文改正で全てが解決できるかのごとく言い立てる.そういう無定見な子供だましで,自分は裁判真理教の被害者だったと主張し,末端の医療者を社会的に葬ってきた過去も消去できる.果たしてそんなに都合良く事が運ぶでしょうか?