反市場原理主義者は,米国は金で命を買う社会だと非難するけれど,今の日本だって,金で命を買う社会だ.米国との違いは,金を払う相手だけだ.
米国では,命を預ける相手(医者+自分が選んだ保険会社)に直接金を払うが,日本では,医者に払うのは3割だけで,あとの7割は国が国民から巻き上げてプールされた保険料から支払われる.
つまり,日本では,病気になってもならなくても,タバコを吸おうと吸うまいと,保険料という名前で国に金を巻き上げられて,その金が日本国中に再分配される仕組みになっている と言うと聞こえはいいが.いわゆるバラマキ福祉ね.だから,自分で自分の足を食っているタコなのに,それがそう見えないようになっているだけ..
バラマキの分配金を相対的に多く受け取るのは,病気の貧乏人だから,金持ちが文句を言い出すのも不思議ではない.しかし,日本人の金持ちは少なくともこれまでおとなしかった.これも社会への還元だと思っているのかもしれない.そこをけしかけているのが,総合規制改革会議を始めとする市場原理主義者達だ.反市場原理主義者はそこが面白くない.折角おとなしくてしている金持ち,病気の貧乏人に稼いだ金を還元していい気持ちになって寝ている子を起こすなというわけだ.
そこで,国が巻き上げた金が効率よく使われているかどうかが問題だと主張する人が出てくる.しかし,現実世界ではそれは大した問題ではない.というのは,医療費の効率性など,永遠にわからないからだ.永遠にわからない問題など,どうでもよろしい.なぜわからないかというと,様々な指標,様々な評価の仕方がありすぎて,多くの人が納得するような評価方法などありえないからだ.
国に巻き上げられた金の使い道がわからないと,国民の多くが疑いの目で国を見るようになる.これも,至極当然の成り行きで,人類の長い歴史の中で,税金の使い方が効率的だと多くの国民が納得した事例など一つもない.
医療費の使い道は非効率的であると信じ込んでいる国民にとって,医療経済学などどうでもいい.医療経済学者が何と言おうと,医療費の使い方は永遠に非効率的なのだ.もはや事実や検証の勝負ではない.プロパガンダの勝負である.
次に国民がどういう行動に出るかは明白だ.国に金を巻き上げられて自分がコントロールできない使い方をされるのは嫌だから保険料を払わない.その分は取っておいて,目の前の医者を自分で吟味して,自己責任でそいつに命を預け,うまくいったら金を払うし,うまくいかなかったら訴える.その方が余程わかりやすいし,自分でも納得できるというものだ.これが本当の納得診療というわけだ.
すでに年金を払わない動きが大幅に出てきている.国民皆年金制度が事実上崩壊している.国民皆保険制度はどうなるのだろうか.早晩同じ運命を辿るだろうか.貧乏人も金持ちも医療保険料を払わなくなる時代が来るのだろうか.