医療事故裁判で警察,裁判というのは最後の手段であって,加害者・被害者ともにぼろぼろになる手前で,第三者機関の審判と,事故について理解しあい,和解する選択肢があるべきだという提案に反対なさる方はいないと思います.そこで,新しく人の命を守る役所を作る提案.
牛の病気だけで農水省とは別の役所が一つできちまうのに,人の命を守る役所ができないのは絶対におかしい.異型クロイツフェルト・ヤコブ病ではまだ一人も死人が出ていないのに,医療事故では毎日どこかで死人が出ているのだから,絶対に税金を投入して医療安全センターを作らねばならない.ちなみに厚労省があるから別に役所を作るのは税金の無駄遣いだという人は,一方で厚労省は悪の枢軸だと言っているわけですから,矛盾している.それにこの役所は,効率よい医療危機管理を目指すから,結局は人命とお金の両方の節約になる.
誰もが必要だと思っていてもなかなか実現しないのは,金と人(ポジション)がつかないからです.医療安全センター(仮称)はどうも商売にはならないだろうから,税金を投入して維持していくしかない.そのためには,納税者の了解が得られないといけない.納税者というのは,すなわち,メディア,世間様ですが,こういった方々は医療事故が多発していると騒いでるわけですから,医療安全センター構想を支持する義務があります.つまり,税金投入は当然です.安全はただじゃない.
医療安全センターは下記の三つの機能を備えてそれぞれの機能を連携させる必要があります.
1.医療事故審判所機能:医療サービスの需給双方に下地はあります.代表は片や医師会,片や医療事故患者団体ですね.水と油でうまく調整できっこないと考えるのは,時代錯誤だと思っています.裁判所でぼろぼろになる手前に,よりましな解決手段があることを示すだけで,両方とも乗ってくるはずだし,そうしなければ,医療事故の世界はお先真っ暗.
2.医療基準監督機能:独立自尊の気概が高い医療従事者・個々の医療機関を”監督”するのは,お上が一般企業を労働基準監督するよりもはるかに困難を伴うことが予想されますが,そこはそれこそ,医療サービスのQuality Controlを行なって,患者様に喜ばれる医療機関作りのお手伝いをしますというキャッチコピーでくすぐるわけです.これも実際には,日本医療機能評価機構による病院機能評価という下地がありますが.こいつの問題点は厚労省の天下り財団法人だということ.
3.医療事故・判例データベースセンター機能:医療事故の系統的な集積,分析をする組織を作って,事故防止を行なう.下地として,現在,国立病院・療養所の医療事故データベース作成が厚労省内で動き出しています.問題は,例によって現場を全く知らない役人がデスクトップだけでデータベース作成をしている点です.そこを手直しできれば何とかなるはず.
いずれも下地があり,まるきり新しい器を用意する必要はないわけです.だから器にはそれほど金はかからないはず.でも,人がいないからやっぱりだめか.でも,医療事故審判所だけでも何とかなりませんかね.医療事故裁判なんて,勝者なき争いなのですから.
こういうことを考えているのは,私だけではありません.
→李 啓充 続アメリカ医療の光と影:第7回 医療過誤訴訟に代わる制度.週間医学界新聞2002年7月15日号
→「医療被害防止・救済システムの実現をめざす会(仮称)準備室」のホームページ
→和田仁孝,前田正一 医療紛争ーメディカルコンフリクトマネジメントの提案.医学書院