私は河川改修工事のことは全くわからない.しかし,川の氾濫を防ごうとする治水事業の最重要部分が,川の源流を細かく調べ上げることだとは,とても思えない.川の流れを遡り,源流を突き止める作業を,趣味として楽しむ人がいていい.しかし,源流がわかったからといって,川を理解したことにはならないし,洪水を防ぐこともできない.
火星の地図を描く作業とも揶揄されたヒトゲノム計画は2003年4月14日にGame overとなった.ヒトの全遺伝子の99%の配列が99.99%の正確さ解明された.だからどうしたというのだ?,デュシェンヌ型筋ジストロフィーの遺伝子異常が見つかってから,もう20年がたつというのに,まだ治療薬が見つからない.アルツハイマー病の予防はおろか,治療薬さえも見つかっていない.
川の源流を全て突き止めれば洪水が防げると主張しても誰も信用しないし,源流探索旅行に資金も提供してくれない.しかし,遺伝子がわかれば病気が治るという主張には多くの人が同調し,莫大な研究資金が消費された.そして,それから何が起こったのだろうか?お金の行方はどうなったのだろうか?遺伝子がわかれば病気が治ると主張した学者は嘘つきで,その時点で研究資金泥棒が始まっていたのだろうか?
いや,彼らは決して泥棒ではない.なぜなら,彼らは,犯罪者として捕まるどころか,今度は,夢の新薬を開発するためには,遺伝子よりも下流を探索しなければならないと言いながら,またまた研究費をいただいて,涼しい顔をして研究を続けているからだ.
このように,恥知らずな健忘症が跳梁跋扈している.その一方で,より現実的で安価な治療法,たとえば,納豆によるダイエットの試みを提案した人々が,散々な目に遭ったのは,誠にお気の毒である.
参考
Big step for science, small step for medicine. Lancet 2007; 369:1974
ランセットのEditorialも、やはり秦山鳴動して鼠一匹じゃないかと揶揄している。