基礎研究なんか,いつどういう形で人間の幸せに繋がるかわかりゃしない!という薄っぺらな流行の悪影響を受けて,「自分は山中伸弥先生のよ
うな天才ではないから,基礎研究なんかに興味は無い」と決めつけてしまう若い人が増殖しているようだ.本当にもったいない!
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はじめまして、●●大学●●内科 ●●●●と申します。現在、大学院2年生で基礎実験の真似事をしていますが、興味が余り持てない状況です。
そんな時、池田先生のホームページでRoad to
BMJの記事を拝見し、大変興味を持っています。
元々、私自身は診断学に興味があり、BMJ
2002;325:800を読んだ時、自分もこんな素晴らしい論文が書けたらと思っていました。昨年4月より●●大学大学院へ入
学し、1年間臨床業務に従事し、本年4月より研究に専念することとなっています。
池田先生が提案されている研究テーマで、特に、ショックバイタルの臨床的意義の研究に興味を持っています。また、そのデータベースを使って、
寺澤秀一先生
が赤本に記載されている、徐脈+ショックの臨床的意義についても検討する価値があるのではないかと思っています。突然のメールで恐縮ですが、
アドバイスを 頂けると幸いです。
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> 現在、大学院2年生で基礎実験の真似事をしていますが、興味が余り持てない状況です。
とてももったいないです。私なんか、ヒトのお医者さんは向いていないので病理学か法医学を志していました.→週
刊医学界新聞記事,長
崎大学広報記事
大学院生3年で国内留学してようやく臨床とおさらばして,基礎研究に没頭できると思ったら,これがまた私の大嫌いな生化学をやれと指導教授から言われて,
絶望しましたが,せっかく臨床を離れたのにもったいないし,大学院生が教授に逆らうわけにもいかないし,仕方なく,誰もが匙を投げた不随意運
動ミュータン
トマウスの神経生化学なんて,一体全体こんなもの,ものになるかどうか,誰もが不安に思っていた仕事をやったのですが,これがまた面白くて,
夢中になって ねずみのお医者さんやってましたよ。
初めての英文の論文がこの基礎研究です(Brain Res
1989;495:337-348)。この論文がアクセプトされた時は、BMJにアクセプトされた時よりずーっと嬉しかった。
だって,この基礎研究の論文はそれこそ世界で私だけしかできない仕事だったから.それに比べてBMJの論文は誰が考えても,誰が論文を書いて
もよかった問題だから.
この基礎研究論文のおかげで医者もやらずにスコットランドで2年遊べたし、研究のアイディアを具体化するプロセス、データの取り扱い、統計の
使い方、論文
の書き方、投稿の仕方、レフェリーの査読の受け取り方、返事の書き方等々、あの時しか学べなかったことが、BMJの論文にはもちろん、今の仕事にも大変役
立っています。
あの基礎研究の時代がなければ、今の私はありませんし,学生の頃から今日に至るまで,憧れているのは,バッハを聴きながら神経病理学の標本を
鏡検して病理レポートを書く時間です.十数年前,新潟で実際にそういう時間が持てた時がありました.
私のpublication
listを見ていただければわかりますが,基礎研究,症例報告(この中には大好きな神経病理学の症例もあります),臨床研究,社
会医学・公衆衛生の4つの分野でほぼ4等分になっています.
ですから,あなたには,今しかできないであろう基礎研究を大切にしてもらいたいのです.そうして,将来,基礎研究ができなくなった環境でも,
診療の毎日の中で疑問に思ったことについて検証仮説を明確にして(ここも基礎研究で鍛えられるところです)研究を続けていける.それが結果的
に臨床研究に なるのです.
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