名義貸しは何処へ消えた?

2003年初から北海道で医師の名義貸しが大きな問題となったが,“綱紀粛正”によってあたかも解消したかのような雰囲気である.しかし,この問題は,医師不足に悩む病院に対する大学医局の強権支配という単純な構図では,決して理解できない.大学医局と地域病院,それに医師自身の三者が,それぞれに名義貸しを支持する事情がある.

他県に比べて北海道で医師が決定的に不足しているわけではない.平成12年度の北海道の人口10万対医師数は192人と,全国平均並となっている.青森(161人),新潟(163人)など,深刻な医師不足に悩む東北,北陸の各県と比べても,数の上では恵まれている.となると,都市部への医師の偏在が問題であろう.連合北海道によれば,都市部に道内医師の90%が集中し、町村部の人口10万対医師数は、81人と,全国平均の4割になっている.しかしそれを誰が非難できよう.配偶者の職場の確保,子供の転校といった事情を考えれば,いったん都市部に住まいを定めてしまったら,容易に転勤など受け入れられるはずがない.

さらに大学側の事情が,地域の医師不足に拍車をかける。研究業績によって選考された教授に対し,研究費獲得競争の圧力がかかる.競争に勝ち抜き,業績も増加すれば、教室員も増加するが,集まってくるのはやはり研究業績や先進医療に興味を持つ者がほとんどだ.そんな教室での主力部隊は,高額な授業料を払っている大学院生達.彼らが無報酬で大学病院の診療実務に当たる一方,激烈な国際競争の研究を行っている。そんな彼らの生活を支えたのが、名義貸しによる収入や健康保険負担の肩代わりだった。

地域の病院とて背に腹は替えられない.定員不足の罰則で診療報酬削減,果てはベッドや外来閉鎖に追い込まれるのに比べたら,多少の上納金を払ってでも,医師定員の帳尻合わせを,と考えるのも無理からぬこと.要請先が最先端の研究や高度医療をめざす医局とわかってはいても,医師の多いところからの派遣をお願いするのは当然である.貧乏大学院生を多数抱えて,研究費の工面にも悩む医局としても,上納金を断る理由はない.このように,名義貸しの構造は決して解消されていない.はてさて,どこへ消えたやら.

以下2004年9月の続報である.やはり,医者がどこからともなく湧いてくるわけではないことがよくわかる.
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2004年09月17日(金) 情報提供:(株)じほう
北海道大
医師紹介要請の受け付け状況、常勤医の紹介可能は2件
継続分優先し新規紹介は困難
 北海道大は、今年度になってから新たに受け付けた医療機関からの医師紹介要請に対する受け付け処理状況をこのほど集計し、公表した。北大の説明によると、6月16日から8月31日までに受け付けた要請件数は、182医療機関から1208件となっている。
 処理状況を含めた内訳は、常勤医師(固定医)の要請56件に対し紹介可能が2件(要請件数の3.6%、以下同)、紹介不可能54件(96.4%)。定期的な非常勤医師の要請75件に対し紹介可能58件(77.3%)、紹介不可能10件(13.3%)、検討中7件。不定期な非常勤医師の要請1077件に対し紹介可能982件(91.2%)、紹介不可能12件(1.1%)、検討中83件などとなっている。

 北海道では、大学医師の名義貸し問題や大学医局への寄付金問題に絡んで、これまでの医局単位での医師派遣では派遣諾否の判断基準が不透明だとの指摘を受け、北大、旭川医大、札幌医大の道内3医育大学は、今年度から大学として医師派遣の諾否を検討する窓口を一本化していた。今回の北大の処理状況公表は、窓口一本化後、初めて集計したもの。

「固定医の紹介可能2件」と低い数字になっていることについて北大は、今回の集計は今年度に入ってから新たに受け付けた純粋に新規の紹介要請である

今年度4月以降の医師紹介分については、すでに昨年度中に「継続分を優先する」という方針で決定していた
ことなどから、固定医の新たな派遣要請について調整は困難だったとしている。 北海道庁は、道内3大学に対し、新たな医師派遣システムが稼働する2005年度までは、「医師引き揚げ」との疑念をもたれないよう、継続分を優先する方向で派遣諾否を決めるよう要請していた。
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