市場原理は医療サービスの質を低下させる.なぜかって?そんなこともわからないの?では,そんなあなたにもよくわかるように解説してあげよう.
鍵は,医療サービスの良し悪しを見極めるのが多くの人にとって非常に難しい点にある.同じ診療科の医師でさえ,他の病院や診療所の診療の質を判断するのは事実上不可能である.実際の仕事を目の前で見せてもらわないと腕の良し悪しがわからないの臨床だからだ.ましてや一般の患者が診療の質を見抜けるわけがない.
一方,市場原理の下で,商品の売れ行きを左右する最大の要素は価格である.商品の品質が判断できないとなれば,安い品がよく売れることになる.そうなると,売り手は品質を落として安い品を売ろうとする.だから,医療サービスに市場原理が導入されれば,安かろう悪かろうが横行することになる.
具体的にどうなるかと言うと,人件費の割合が他産業に比べてはるかに高い医療サービスでは,人減らしが最も有効なコスト削減方法である.だからこそ,市場原理が厳しく制限されている現在は医師,看護師など,人員配置基準がある.市場原理を本格的に導入するとなれば,コスト削減の選択肢を増やすために,この配置基準を緩めることになる.
このような有害事象を心配して,人員削減ができないようにしても,内装,建物,食事などに金をかけて,客を引く一方,目に見えない費用,例えば診療録管理とか危機管理の費用を切り詰めてコストを削減しようとする.
もっとわかりやすく言えば,住宅建設産業を見てごらん,ありゃ,完全に市場原理だろう.でも,そこらじゅうで,欠陥,手抜きが話題になっているじゃないか.あれが,市場原理導入の結末なんだよ.住宅なら大金を失うだけで済むけど,医療の世界への市場原理導入は命を失う人が増えるってことさね.
市場原理下では,安価で良質な医療サービスは絶対にありえない.安価で粗悪か,高価で良質か,二つに一つしかない.いや,正確に言うと,二つに一つではない.貧乏人は死に,金持ちだけが生き残るという,たった一つの選択肢しかない.