米国地域医療の実態
米国の医療というと、しばしば功罪両端の極端な伝え方がされるのですが、これは非常に貴重な報告だと思います。どこでも苦労していることがわかり
ます。
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【アメリカ】エボラ対応に見る米国地域医療の脆弱さ 「現場からの医療改革推進協議会」第9回シンポ
M3.com 2014年12月15日(月) 橋本佳子(m3.com編集長)
12月14日に東京都内で開催された、「現場からの医療改革推進協議会」の第9回シンポジウムで、米国テキサス州のベイラー大学病院ベイラー研
究所膵島移植部門の助教を務める瀧田盛仁氏は、「エボラウイルス2次感染で浮き彫りになった米国地域医療の課題―テキサス州ダラスでの事例から
―」と題して講演した。
米国内でエボラ出血熱の感染が初めて確認された患者を診察したのは、テキサス州ダラスの中核病院の一つ、Texas
HealthPresbyterian
Dallas。ジョージ・ブッシュ前大統領も心臓手術を受けた病院だ。リベリアでエボラ出血熱患者の搬送などの支援をした後に帰国した患者は、無保険者
だった。瀧田氏は、最初に受診した際、抗生剤投与のみで帰宅したエピソードという視点から、一連の経緯を検証すると、オバマケア
(Affordable Care
Act)によってもなお無保険者が多い米国の現状や、医師不足で救急外来の待ち時間が長いなど、米国の地域医療が抱える問題点が浮き彫りになるという、ユ
ニークな視点から講演した。
無保険者の診療は、病院の持ち出しになることが多く、保険者からの支払いも締め付けがあり、病院経営が厳しい状況も紹介された。エボラ出血熱も
含め、感染症対応の体制や職員の教育、さらには診療を十分に実施できる保障はあるとは限らない現状がうかがえた。その一方で、瀧田氏の講演では、
米国ではこのエボラ出血熱の患者の経過をはじめ、さまざまな情報公開が進んでいる実態も示された(米国議会下院のホームページに掲載)。
診療医師の略歴、メディアに
患者は9月20日にダラスに帰国、その4日後の9月24日に発熱、翌25日の夜にPresbyterian
Dallasの救急外来を受診したが、抗生剤が処方され、帰宅。その後、同病院を9月30日に再び受診した際に、エボラ出血熱と診断された。その後、治療
の甲斐なく、10月8日に死亡した。同病院の2人の看護師に2次感染したが、他の州の高度病院に搬送され、血液からウイルスを検出しない状態にな
り、退院した。その後、接触者への経過観察も終わり、テキサス州は11月7日、エボラ終結を宣言した。
瀧田氏が、まず米国の特徴として挙げたのが、報道の在り方。最初に診察した医師の経歴は、写真付きで、地元メディア、「dallas
news」サイトに掲載された。それによると、Mayo Medical
School卒業の53歳。カリフォルニア州で研修後、Presbyterian
Dallasに勤務。その後、顎骨感染の見逃しで、医療訴訟に遭う。放射線科用ソフトウエア会社を立ち上げるが、資金難に直面し、再び
Presbyterian Dallasに戻ったという。
救急外来でも1時間待ち
9月25日の患者の初診時の症状は、腹痛、めまい
吐き気、頭痛で、熱は37.8℃。一般的な血液検査などのほか、CT検査も実施している。「本音を言えば、無保険者の方、しかも夜に、これだけの治療をし
ており、丁寧にやっていると思う」と瀧田氏。
初診時の問題の一つが、医療従事者間の情報伝達の在り方。救急外来の看護師が、西アフリカから帰国した患者と聞いていたが、それが医師に伝わら
なかった。電子カルテに問題があるとされた。Presbyterian
Dallasでは、医師用の電子カルテと、看護師用は別だという。「米国は縦割り社会だが、情報は拡散する社会。電子カルテだけが悪者なのか」(瀧田
氏)。
救急外来の待ち時間の長さも見逃せない。患者が救急外来を訪れたのは、午後10時20分頃で、10時37分に受付をし、その1時間後にナースに
よるトリアージが開始、医師の診察を受けたのはその約50分後だ。
メディケアの統計によると、救急外来での待ち時間は、テキサス州の平均は26分。Baylor Univercity Medical
Centerは50分、Presbyterian
Dallasは52分と長い。その背景にあるのが、まず医師不足。10万人当たり医師数は、テキサス州は約200人で、米国全体では260人弱、日本の
237.8人(2012年)よりも少ない。
テキサスの無保険者、依然2ケタ
無保険者の問題も大きい。テキサス州の無保険者は2013年は21.3%だったが、オバマケアにより、2014年14.8%まで減少。しかし、
依然として2ケタの無保険者がいるのは、テキサス州の場合、単身世帯では年収1万1490ドル以下、4人家族の場合は年収2万3550ドル以下に
ついては、Affordable Care Actでもカバーされない。
無保険者は、日中はチャリティーによるクリニックで、最低限の診療を受ける。夜間は、ベイラー大学やPresbyterian
Dallasのような、中核病院のERを受診する。「中核病院では、保険にかかわらず、患者を受け入れるよう求められている。しかし、無保険者にかかる治
療費は病院の持ち出し。その額は、2013年の場合、ベイラー大学では年1.728億ドル、Presbyterian Dallasは年8.65
億ドルで、総収入の10%から15%に当たる。保険に入っている人から取らないと、病院としてはやっていけない」(瀧田氏)。
瀧田氏の専門は、膵島移植。自家移植の場合、民間の保険では年間30件程度実施している。しかし、メディケア、メディケイドの患者については、
病院の持ち出しになるため問題視されるという。メディケア・メディケアから、ベイラー大学への支払いも2014年度は減額されるほか、「とかく、
お金のペナルティーになる」(瀧田氏)。患者が再入院した場合、メディケアからの支払いは減らされるルールもあるという。さらに、
Presbyterian Dallasでは、エボラ出血熱患者を受け入れた経営的ダメージも大きい。2次感染を恐れたためか、患者診断後の約1
カ月は、救急外来患者が約53%減少、それに伴い、外来の収入も約25%減少したという。
「人と金」をいかに好循環で回していくかが各病院の課題であり、ベイラー大学では、他病院との共同購入などのアライアンスの強化、病院自身が保
険者として健康保険を作るほか、病院事業体の合併も検討しているという。
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