一般的な診療のハードエンドポイントは,患者の幸せであり,診断確定はあくまで代用エンドポイントないしは,患者の幸せを実現するための手段である.だから,患者が幸せになれば,診断が決まらなくてもよい.と,文章を読む時は納得できる.しかし,現実世界で診療する時は,我々は診断確定強迫症に陥る.
診断を確定しなければ,治療ができない.治療ができなければ患者さんを幸せにできない.そう考えてしまう.特に若くて,これから勉強しようという意欲満々の病棟医が診断確定強迫症に罹患しやすい
しかし,医者が診断を決める過程とは全く独立して,患者さんが自然によくなってしまうことがある.春日武彦が言うところの,棚上げ・先送り戦略の有効性が見事に発揮される図式である.
このように,診断確定強迫症に対しては,まず,時間軸の概念を導入すること.今,診断確定しなければならない.今日,診断確定しなければならないとしたら,それはなぜなのか?どんな不利益が予想されるのか?2−3日経過を見られないのはなぜか?そう明確な疑問を設定できれば,自分がサボっているのではないかという自己攻撃性から自分の身を守ることができる.
それができるようになったら,診断の深さという概念を導入する.診断とは,確定診断がついた状態と,診断がつかない状態の白黒に分かれるのではない.
たとえば,「3年前からだんだんと歩きにくくなってきた」という訴えの60歳男性があなたの外来にやってきたとする.その際,あなたの診断の深さはどうなるだろうか?予診表を読んだ段階では?診察室のドアを開けた段階では?問診の冒頭では?,問診が終わってからでは?診察の最中では?診察が終わってからでは?
何らかの緩徐進行性の神経疾患を疑う>神経変性疾患ではないか>アルツハイマー病ではない.筋萎縮性側索硬化症でもないだろう.でも,パーキンソン症候群か脊髄小脳変性症か難しくてよくわからない>パーキンソン症候群だろうけど,病名までは決められない>パーキンソン病ではなく,進行性核上麻痺でもない.線条体黒質変性症に違いない.
この深さが,医師によって,また患者によって,また,たとえ医師と患者が同じでも,時期によって(初診から剖検報告まで),この深さが変化します.診断の深さもケースバイケースで,今,このセッションで,自分とこの人にとっての診断の深さはどこのあたりか?,その深さの意義はどうやって決めるのか?
だから外来教育は止められない.