変えていくのは若い人2
(2015年2月24日の香川大学臨床推論勉強会に参加して 続き)
「勉
強会の内容も世界のトップレベル」と言われても、皆さん、何がトップレベルだかわからないでしょう。ぶっちぎりの最先端を走っているランナーというのは、
実は自分自身がそうとは気づかないものです。ロードランナーであれば、一人で走っていると思うだけだし、トラック競技では、周回遅れの他のランナーと一緒
に走っているから、自分がぶっちぎりだと気づかないのです。
昨日、冒頭から「すげ-」と私が思ったのは、closed
questionだけを使って問診するというY先生の提案です。この出発点が世界のトップレベルの勉強会の出発点となりました。というのは、下記の点が次
々と明らかになっていったからです。どうです、どれも、世界のトップレベル、NEJMのClinical
Problem-Solving並どころか、それを超える議論でしょ。
●Y先生が仕掛けた制限が学生さんから質問の嵐を生んだ。というの
は、ただ「何でもいいから質問して」と言われると、何を質問したらいいかアイディアが浮かんでこない。おなかが空かないと食べ物を探さないのと同じ。一
方、closed questionだけと具体的に制限がかけられると、その制限の中で必死に使える物を探そうとする。
●closed questionだけしか使えないとなると、closed questionだけを使ってどこまでできるか工夫する。closed question の本当の意味がわかる。MRIがなくてCTだけしか使えない時と同じ。
●closed
questionは具体的な病態・疾患を想定し,その病態・疾患をrule inあるいはrule outするために行われる。だから,closed
questionで問診をする時は,自分は今,どんな病態・疾患をrule inあるいはrule
outしようとして,この質問をしているか?と自分を問い詰める,そうして自分に対して説明責任を問うようにすると,問診上手になる.
●
実際に医師はみなそうしている.ただ,そこに他者の批判のプロセスが入らないので,どうしても我流になり,個人差が大きく,また学習効率が低下するので,
学生のうちから,お互いに自分の問診を外から見る(見てもらう)訓練・場面を意識して作ることが大切.それが正に昨日の勉強会だった。
●
問診の初期ほどrule
outのための問診を多用し,予後が重篤だったり,治療法がない疾患の診察前確率を徹底的に低くして→診察項目を絞り込み→診察を効率よく行う.そうしな
いと,神経診察を全部やろうとして,患者さんと二週間合宿する羽目になる.現実には、そんな暇は無い。
●このrule
outを徹底的に行うことによって,鑑別診断が相対的に浮き上がってくるのが上級者の問診.もし,rule outよりもrule
inを先行させれば,rule outが手抜きになる→rule outしておくべき(だった)疾患をrule
outしそこなう→あとで「見逃し」として痛い目に遭う.
●問診でのrule outの手抜きを,診察や検査で挽回しようと思わないこと!なぜなら
- 一般に、診察や検査よりも的を絞った(!)問診の方がはるかに感度が高い
- 診察・検査項目が膨大となり患者も医師の負担も膨大になり、非効率的.陰性所見がやたらと多くなり,疲れるだけ.現実には、そんな暇は無い。
- 特に神経診察の場合,診察の目的は圧倒的に特異度の高い項目の陽性所見の確認rule inであって,感度の高い項目による陰性所見の確認によるrule outを綿密にすることは上記に述べたように現実的ではない.現実には、そんな暇は無い。
●
そうやって絞り込んだ神経診察の基礎にはrule inあるいはrule
outのための問診がある。だから診察の時も、この診察は一体どの問診項目に対応しているのか?それが一体どういう結果になったら、どの診断にどういう影
響を与えるのか?(該当診断の事前確率をどう変化させて事後確率はどうなるのか?)を、神経内科医は一々考えて診察をしている。それを考えずに診察をする
神経内科医など、この世に一人もいない。
2003年7月に「大盤解説」のコンセプトを世界で初めて私が提唱した時、学生さんの多くは小学生でした。そして、「大盤解説」って何のことかも知らな
い。そんなこと知らなくたって、あんな凄い勉強会が、ごく自然にできる。私を含めて、おじさん達は問診項目についてはああしろこうしろとは一言も言わな
かったのに。世の中というのはこういうふうに変わっていくのかと、またまた学生さん達に教えてもらいました。
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