イタコとの会話

先日,ある妙齢の女性からお誘いを受けて,銀座の仏蘭西料理屋でご馳走になるという,おそらく生まれてこの方一度もなかった僥倖に巡り合った.料理はもちろん素晴らしかった.それで話の内容はということになるが,なに,言わずと知れたこと.

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イタコのヨーコ様
こちらこそ,勉強になりました.何かを教えたっていう感覚は全然ありません.それは,あなたが,患者さん自身の代弁者だったから.下北半島は恐山にいるイタコですね.イタコの商売は,亡くなった人の家族の依頼で,死者の魂が乗り移って,口上を述べることです.

診療とは,患者さんから突きつけられた問題で立ち往生することです.我々は外来で,病棟で,いつでもどこでも立ち往生しているわけです.あなたは,イタコのように,患者さんに代わって私に問題を突きつけて,私を立ち往生させてくれたわけです.だから,教えたという感覚はまるきりなくて,ついこの間まで私がいた,重度痴呆の患者さんで溢れていた病棟そのものだったね.原因不明の胸膜炎や心肥大でひどく状態が悪い人がいる一方で,失禁どころか,放尿,放便し放題,自分の布団には目もくれず,他人の布団にばかり潜り込む疥癬のじいちゃんやら,他人の点滴ラインを引き抜くのが趣味だったばあちゃんが元気に歩き回っていた,あの病棟です.

料理はすばらしかったけど,毎回あんなご馳走じゃ,気が引けますな.尿臭がある場所の方が臨場感があっていいとまでは申しませんが,場末のがらんとしたファーストフード店なんかの方が,話の内容に合っていると思うんですが.
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