ここ上越にも春が来た.雪といえばはるか遠くの山々の残雪のみ.この季節,病を得て外来に来る人々の顔も,冬の最中よりはるかに明るい.
この冬,しんしんと雪の降る日,家へ帰ればベテラン主婦である医局の秘書さんがふと漏らした.”冬は人間関係が悪くなるわねえ”,隣近所で,どの家が,どこの雪かきをするか,雪の捨て場はどうするか,それがしばしばいさかいの元になる.一軒家ならいざ知らず,二つの家が軒を並べれば,家の前の道路には,必ず共有部分が生じる.そこを,いつ,誰が雪かきするかが大問題である.ここ上越でも御多分に漏れず核家族化が進み,雪かきの労働力は細るばかりなのに.
一晩で1メートルも積もれば,次の朝,出勤するためには,ただでさえ慌しい朝に,車庫の前の雪かきをしなくてはならない.多くの労力と時間を割くばかりではない.雪をどこに捨てるかということも大問題だ.そのために,ここ上越では,家を建てるときは,雪の捨て場となる部分を考慮して敷地に余裕を持たせることが要求される.雪は空から降ってくる膨大なゴミであり,そのゴミの捨て場を,各戸で確保しておかねばならないというわけだ.ちなみに,上越でも雪の深い地方では,雪かきとは言わず,雪堀りという.”掻く”なんて生易しいものではない.正に掘るのである.昔,冬の道標に,”この下,高田”とかあったとか,ないとか.
近所付き合いだけではない.降り積もる雪は,一つの家の中の人間関係も悪くする.雪が降る,積もる.田んぼの仕事はもちろんない.この雪の中,どこか旅行へ出かけようという気にはなれない.車も電車も,とにかく移動が難儀なのだ.必然的に家に閉じこもることが多くなる.しかし,狭い家の中でいつも同じ顔ばかり見ていると,ストレスがたまる.酒の量も増える.ささいなことでいさかいが起こる.
ここ上越に来てまず驚いたのは,パチンコ屋の多さである.勤勉篤実で賭け事が嫌いな新潟県人には似合わない風景だとかねがね不思議だったのだが,冬の間,家庭を離れてささやかなストレス解消のできる貴重な場所と考えて合点がいった.