ジムことジェームズ・マッカロックは研究所の副所長で,僕の直接のボスだった.38才で英国の大学の教授になるくらいだから,もちろん仕事は出来て,切れ者だけど,すましているようなやつじゃなかった.レインジャーズの熱狂的なファンだし,仕事をしている時間より,冗談を言っている時間の方が長かった.僕はもちろん,スコットランド人の部下でさえ,いつも訳のわからないつっこみで煙に巻かれてばかりいた.いつも言われっぱなしじゃくやしいから,なんとかたまには切り返してやろうと機会をうかがっていた.
ある朝,いつものように停留所で研究所へ行くバスを待っていた.警笛が鳴る方にふと目をやると,ジムの赤いボルボだった.ありがたい.助手席に乗り込むと,例によってジムが早速仕掛けてくる.
”どうだい,マシー,これで10分節約できただろう.これで余計に研究ができるってもんだ.君は僕に感謝すべきだよ”
”もちろんさ,ジム.君のような配慮ある上司に恵まれてね.でも,同時に君は僕をホームシックにしてしまったね”
”なぜだい?”
”君の言うことを聞いてると日本のカミカゼビジネスマンを思い出すからさ”