変身願望

普段は風采の上がらない勤め人が,ここぞという場面では悪の組織の野望を挫く正義の味方に変身する姿は,いつの世も,誰にも歓迎され,視聴率が稼げる人気シナリオです.

医師という職業の人気も実はここにあります.「病魔」が悪の組織に取って代わっただけですが,一つ困ったことがあります.テレビに出てくるヒーローは悪の組織が手を変え品を変え,様々な刺客を送り込んでも,毎回必ず時間以内に片付けますが,お医者さんはそうはいきません.今週は神経膠芽腫瘍の手術,来週は経皮的冠動脈血栓溶解,再来週は,糖尿病性ケトアシドーシス昏睡の管理というわけにはいきません.

そこで,テレビの中の,万能のヒーローを諦めて,現実的な路線はどうするか?という選択肢を迫られるわけです.どんなお医者さんになりたいか?という問いかけは,外部環境の制約と,内なる自分の限界との終わりのない対話なのです.

専門医・総合医の二項対立の幻も,この対話が投影されたものです.そこでは,どんな正義の味方になりたいのかという自分の心の中での葛藤と,隣の芝生が青く見えるような他者の境遇と自分の立場の葛藤と,国の規制の成り行きへの懸念が,各人の頭の中で全てごちゃごちゃになって,極めて非効率的な論争が延々と繰り広げられています.

私が,専門医・総合医論争から距離を置いているのは,そういう理由です.

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