ヘルストロンと聞いてもぴんと来ない人も多いだろうが,商店街の一角の,選挙事務所やくじ引き所になるような空店舗を使って,キャバレーか不動産屋みたいのぼりを立てて,じいちゃんばあちゃんを呼び込んで,カチカチと音を出すいすに座らせて,ここから出てくる高周波が万病に効くと,ありがたいご託宣を聞かせてくれるやつ,と言えばわかる人も多いだろう.ドクタートロンなんて名前の時もある.
ネーミングがいい.トロンというのはギリシャ語で道具という接尾辞なんだそうで,何だが神秘的な御利益ががありそうな響きだ.ネーミングがいいのは,いかがわしいものと相場が決まっている.埼玉厚生文化事業団とかオレンジ共済組合とかいうのも,とても素敵なネーミングだった.
しかし,いくらヘルストロンがいかがわしいからといっても,信者の前であからさまに非難すると,強烈な反撃を食らう.僕らが毎日苦心して処方するいわしの頭よりずっとよく効くってね.
ヘルストロンの類の仕掛けには厚生省の認可(登録?)番号というものがついている.こういうものを野放しにしないで,きちんと申請させて自分の仕事を増やしているお役所の努力には敬意を払いたい.なにがしかのお金をとって,税収にも貢献しているのでだろう.ついでに頭脳パンも許認可の対象にしたらどうか.
せっかく許認可業務までやっているのだから,臨床治験もやったらどうだろう.医療器具だから効果があるということを証明すべきだ.それとも,効果がないことを承知で認可しているのかな? そうだとしたら,一方で,がまの油に効能をこじつけようと必死になっているたくさんの製薬会社がかわいそう.不公平というものだ.
ヘルストロンの大規模二重盲検臨床治験!! 筒井康隆に書かせれば面白い話に仕立ててくれるだろう.
注:2002年2月,新潟こばり病院循環器科の大島 満先生から次のようなご注意をいただいた.
ペースメーカの業者にこの機器について調査してもらいました。この装置は、椅子の中に交流電流(9000V)を通します。利用者はこの椅子に腰掛けて発生した磁界の中に身を置く形です(全身ピップエレキバン状態でしょうか??)。この磁界がペースメーカの回路に干渉し、ペーシング出力が低下してペーシング不全を起こしたり、設定が変更されるなどの影響が懸念されるため、ペースメーカ・植え込み型除細動器使用中の患者さんには使用しないでいただきたいとの回答でした。