専門医教育を叫ぶ前に

専門医を増やせと恥さらしな声を上げる前に,もっとやることがあるだろうと言った.

専門医を多く育てれば,患者さんがその恩恵に与れるかというと,そうではない.専門医の種類が数ある中で,患者さんがそこまでたどり着けない可能性の方が高いからだ.そうなると,むしろ,GPを教育して,より効率的かつ的確なコンサルテーションと専門治療後のフォローアップをしてもらうことが,人的資源を有効に使う意味で重要.

神経内科の教育を例に上げて考えてみよう.実は,神経内科の教育は,神経内科医以外のためにある.なぜなら,神経内科医自身は勉強のために非常に恵まれた環境にあるから,特別に教育プログラムなど考えてやらなくても,もともと好きでやっているのだから,勝手に勉強する.嫌でも神経内科の患者を診る.

一方,神経内科医以外の医者は,すべて神経内科が苦手だと明言する.神経内科医はこの声を天の声,ありがたい御言葉と受け止めなくてはならない.全く興味がなければ,”苦手”という意識は決して出てこない.苦手ということは,恋心,勉強したいという気持ちの現れだ.

だから,神経内科の教育は,神経内科医以外の医者を対象にしなければならないが,問題は,神経内科が好きで,神経内科を学ぶ環境に恵まれた人間が,神経内科が大嫌いな医者の立場に立って,彼らの気持ちになって教育を考えられるかどうかだが,現実は正反対だ.だから神経内科医嫌いがどんどん繁殖し,適切なコンサルテーションが行われず,患者さんが専門的な治療を受けるチャンスが失われている.

名選手必ずしも名コーチならずで,専門分野の診療に熟達しているのと,他科の医者に教育するのとは,訳が違う.専門分野の診療知識とは別に,そ教育技術が要求される.また,教育には良好なコミュニケーションが必須だから,コミュニケーション技術の習得も必要になる.ところが,専門医の教育は,その医者を蛸壺に誘うから,通常,専門医はコミュニケーション技術を持っていない.

各専門学会で,他科の医者に自分達の分野の診療技術を取得してもらうための教育・コミュニケーション技法の研究や教育メニューの開発を早急に行う必要がある.自分達の専門資格の方が上だの下だの,癌の化学療法は内科医に任せろ,いや外科医もやらなくては,なーんてしょーもない縄張り争いをしている場合ではない.

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