免停に及ばず

Gaba DM, Howard SK..Patient safety: fatigue among clinicians and the safety of patients. N Engl J Med. 2002 Oct 17;347(16):1249-55.

「米国では,医療専門家,とくに研修医の労働は,他の分野で容認できるとされる限界をはる かに超えている.」と紹介文にあるが,”米国では”という副詞句は不要である.人の命を預かる仕事をする人間が,睡眠不足だったらどういうことになるか?それは誰の目にも明らかだ.だからこそ,バスやトラックの運転手には十分な睡眠時間を確保することが,雇用者には義務付けられている.

この論文によれば,24時間睡眠なしだと(それなりの規模の病院の救急当直ではしょっちゅうあること),注意力の低下はアルコール血中濃度0.1%に相当する.これは立派な酔っ払いで,日本でも一発で免許取り消しのレベル.

気の弱い人でなくても,酔っ払い運転のバスには決して乗りたくないだろう.でも,当直明けの医者に診てもらうのは平気なのだろうか?あなたは平気でなくても,東京ERとやらを強行して悦に入っている都知事殿は平気に違いない.

金がないことを理由に医者を増やさず,限られた数の医者を徹底的にこき使う.睡眠不足でへとへとになった医者が事故を起こしても,”けしからん医者だ”の一言で片付ける.人の命よりも金を大切にする政治の正体がこれだ.

酔払い運転をしたバスの運転手は免許取り消し,懲戒免職になる.しかし,睡眠不足の研修医が医師免許取り消しや懲戒免職になったという話は聞いたことがない.わざわざ懲戒免職にしなくても,どうせ過労死するからということなのだろうか.

参考:
1.木戸友幸:もう一つの米国レジデント物語第3回 週間医学界新聞
2.江原 朗.労働基準法と病院小児科医.日医総研リサーチエッセイ No.28(2003年1月28日)
3.S.W. Lockley and others. Effect of Reducing Internsユ Weekly Work Hours on Sleep and Attentional Failures. N Engl J Med 2004; 351 : 1829 - 37インターンの集中治療室における長時間勤務シフトを減らすことで,睡眠時間が有意に増加し,夜間勤務時の注意力の欠如が有意に減少した.
4.C.P. Landrigan and others. Effect of Reducing Internsユ Work Hours on Serious Medical Errors in Intensive Care Units. N Engl J Med 2004; 351 : 1838 - 4824 時間以上のシフトで頻繁に勤務するインターンのほうが,短時間シフトで勤務するインターンよりも,重大な医療過誤を相当多く起した.長時間勤務シフトを廃止し,1 週間当りのインターンの勤務時間数を減らせば,集中治療室における重大な医療過誤を減らすことができる可能性がある.

追伸

英のアン王女、今度は150キロで飛ばし罰金7万円
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 エリザベス英女王の長女アン王女(50)が13日、制限速度をはるかに超える時速150キロで愛車を運転したとして罰金400ポンド(約7万2000円)の支払いを裁判所に命じられた。

 アン王女は、過去にも数回、罰金命令を受けたスピード違反の「常習」。今回、弁護士を通じて「謝罪声明」を裁判所に提出したが、命令のあった13日は別の場所であった警察署新築の記念行事に出席し、出廷はしなかった。

 王女は昨年8月、英国中部で開かれた公式行事に急ぐため、制限速度を50キロ上回る猛スピードで運転。近くにいたパトカーが発見して警告灯を点滅させて追跡したが、護衛と勘違いしてそのまま走り続けたという。(2001年3月14日)
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こいつはとっくに免停にしなきゃならんはずなんだが・・・

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