恥ずかしくて言えなかったこと


まず,恥ずかしくて恥ずかしくて,医学生のみなさんが今まで言えなかったことを,代わりに言ってあげましょう.

”医者になりたくない.”  そうでしょ.医学部の学生が,医者になりたくないだなんて,恥ずかしくて人には言えませんものね.

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それは私だって,一生懸命勉強して,”目出度く”難関を突破して,とてもうれしかった.親だって,ちり紙交換の車を借りて,町中に拡声器で自分の医学部合 格を触れ回りかねないぐらいの喜びようだった.親戚ばかりでなく,近所の人も医学部合格おめでとうと言ってくれて,羨望の眼差しで見てくれた.

でも,医学部に入って,現場について見聞するのは悪いことばかり.事故,過重労働,低賃金,人間関係の悪さ・・・・話が違うじゃありませんか.それ でも一生懸命勉強して医者になれっていうのでしょうか?

そう思って回りを見渡すと,一層不思議な光景が広がっています.同級生はみな,素晴らしい医師になることを夢見て,生き生きと努力しているように見 えるのです.いつも話題は,”どうやったら立派なお医者さんになれるか”そればっかり.立派だと思うけど,私もついていきたいと思うけど,でも,全然自信 がない.あんなに輝けない.

医者になりたくない医学生っておかしいの?,おかしいのは自分だけ?自分だけが異常なの?先輩医師も,上級生も,同級生も,下級生も,みんなあんな に生き生きしている.それに比べて自分は,何と惨めなんだろう.すでに落ちこぼれ,そう思って,不安を抱えながら一人で悩んでいます.なのに,周りは勉強 頑張れ,卒業試験,国家試験合格頑張れ,立派なお医者さんになって頑張れの一点張りです.一体いつまで頑張ればいいのでしょう?もう,すでに落ちこぼれて いるのに,この先,厳しい現場で耐えていける自信なんて,これっぽっちもありません.
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なんでわかるのかって? 簡単ですよ.25年前の,そして今ではすっかり頭は薄くなってしまっても,中身は大して変わらない私のことを書いただけ.簡単に わかることだから,私だけじゃなくて,私の仲間も,世の中のお医者さんの多くも,”医者になりたくない病”のことはよくわかっています.

では,学生の頃からこんな悩みを抱えながら,なぜ,私が曲がりなりにも医者をやっていられるかって?それは仲間がいたから.学生の頃は,こんな変わった悩 みを持っているのは自分だけだと思っていたけれど,現場に出てから,多くの人が同じような悩みを持ちつつ,しかし,あからさまに口には出せずに,働いてい ることがわかったからです.

そういう仲間は,経験や年の差に関係なく,私の悩みに共感し,理解してくれました.ある人は私の愚痴を聞いてくれました.ある人は私の仕事を手伝ってくれ ました.またある人は,もっと手を抜け,もっと休めと助言してくれました.

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