EU崩壊の引き金を引いたCOVID-19
COVID-19はシェンゲン協定を実質的な破綻に追い込んだ。感染症による一時停止だと本気で信じる者は、事の重大性を理解できていない愚か者である。シェンゲン協定さえなければ、難民を引き受けずに済む。COVID-19を奇貨として、シェンゲン協定を恒久的な停止に追い込む。ドイツ国内でさえ、そう目論んでいる人間は決して少数ではないだろう。増して況んや他のEU諸国においてをや。
そんな中、2020年3月3日、主にシリア戦争を逃れてきた人々から成る400万人以上の難民を抱えるトルコが国境を開放した。シェンゲン協定に加盟していないトルコが国境を開放したのは、決して難民達に「自由」を与えるためではない。そのことは、難民達が「自由」を求めて辿り着いた国境で、ギリシャ治安当局から受けた仕打ちによって理解できる。彼らが受けたのは入国管理官による尋問ではなく、鉄条網と催涙ガス弾だったのだ。追い返された彼らの多くは、食料も身を寄せる場所もないままトルコ側にとどまっている。(トルコが切った「難民カード」、憤る欧州との摩擦激化)
EUの基本理念である人の自由な往来を担保するシェンゲン協定の破綻は、EUの崩壊につながる。欧州各国の対立の激化は,もちろん未曾有のシナリオではなく,誰もが知っている100年前の悪夢のdeja vuである.ただし、100年前とは大きく異なる点がある.第一に経済恐慌が対立のピーク(戦争)の後ではなく同時にやってくること.第二に100年前の悪夢では悪疫(スペイン風邪)が戦争の最中に起こり,兵員不足と厭戦気分を招き,戦争を終わらせる立役者になったけれど,今回は悪疫が欧州各国の対立の原因となったことである.
COVID-19を地球上から駆逐するのは極めて困難であろうという見解がある一方で、駆逐云々は学者が勝手に考えてくれ。俺たちにはもっと大切なことがあると考える向きもある。(Do we need a new Marshall Plan to rebuild Europe after COVID-19?) では、
COVID-19によって米国以上に傷ついた(と欧州自身が考える)欧州各国に対し、米国が手を差し伸べる可能性はどのくらいあるだろうか?おそらく多くの人はゼロと回答するだろう。回答理由の第一位は、おそらく米国自身の問題、つまり「欧州に構っている余裕もそうする気持ちもない」だろう。それに比べたら、当時存在し、今は消えてしまってから30年以上も経つ問題を回答理由に挙げることは難しい。しかし、マーシャルプランの対象国の一覧を見れば、直ぐに自明となる。特定の集団に肩入れするからには、それ相当の理由があるものだ。なお、中立国であるはずのオーストリアが入っているのは、敗戦国として痛手を被ったためであろう。一方、スペインが入っていないのは、中立により国土を蹂躙されなかった一方で連合軍に味方しなかったフランコをアメリカが嫌ったためだろうか。
今、欧州が直面しているのは「悪夢」ではない。そして、英知(*)を集めるとしたら,その標的は決して治療薬・ワクチンの開発ではない.目の前に突きつけられた、100年前よりもはるかに危険な現実である。
*そんなものがあればの話だが→EUは3度目にして最大の危機でも「内輪もめ」
参考:[FT] コロナ危機で露呈、無極化した世界 20/4/10 日本経済新聞
イタリア関連のメモ(整理したいと思っているがその時間がないので、ここに一時的に置いておく)
イタリアが新型コロナウイルスの“激震地”になった「2つの理由」と、見えてきた教訓
↑上記で引用されている論文
Demographic science aids in understanding the spread and fatality rates of COVID-19
↑この論文を掲載しているOSFというサイトについての解説『OSF』で社会に開かれた研究室へ〜LabTech海外事例最前線〜
日本ほどではないけれど,イタリアでも人口は減少している
Countries in the world by population (2020)
↑
中南米や中東欧各国における人口減少の主な原因は、働き口を求めての米国や西欧への移住
↑
欧州各国間での移動の自由を担保してきたシェンゲン協定
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COVID-19の感染拡大を受けて,むしろ中東欧各国の方が国境管理に先手を打った(20/3/14)
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EUの盟主国もたまらず国境封鎖(20/3/18)
→コロナのデマに飽きた人へ