奇妙な表現

形 容詞・形容動詞は修飾する対象を選ぶ。例えば、「美しい花」は、陳腐な組み合わせではあるが、ほとんどの場合問題ない。「美しい人」については、人によっ て受け取り方、想像する内容が異なるが、その表現自体がひどい違和感を生じさせることはない。しかし、「美しいゴミ」、「美しい断崖絶壁」、「美しい水素 原子」となると、取扱にひどく困惑する人が多いのではなかろうか。

「有名なスパイ」は、このようなミスマッチの典型例である。少なくともスパイとして活動しているうちは、有名では商売にならない。ジェームズ・ボンドが映画で稼ぐしかないのは、本業は全く使い物にならないからである。

総合診療医ドクターGを見たお医者さんから決まって出てくる質問が、「優秀な研修医ばかり選んでいるんだろう」．奇妙なことを言うもんだ．　

何言ってやがる。全然わかってねえんだから。「優秀な研修医」を選んでいるんじゃねえんだよ．「優秀な研修医」なんてのは，いねえんだよ．研修医ってのはな、みーんな、おまえさんなんかより優秀なんだよ。ただそれだけのことなんだよ。

「優秀な研修医ばかり選んでいるんだろう」　という言葉の裏には、自分よりも「よくできる」研修医を目の当たりにした、おじさん・おばさん達の脅威・嫉妬がある。しかし、脅威も嫉妬も全く感じる必要はない。「優秀だ」と思ったら教えてもらえばいいだけじゃないか。

い つの世もどこの国でも、研修医ってのは、おじさん、おばさん達よりも優秀なんだ。なぜかというと、ヒポクラテスの時代より前から、人の命がかかっている医 療の世界では、知恵の伝承が真摯に行われているからだ。いつの時代、どこの国でも、医療の世界では、おじさん、おばさん達は、自分を乗り越えていくよう に、自分たちが早くお払い箱になるように、より多くの患者さんの喜ぶ顔が少しでも早く見られるように、若い人に惜しみなく知恵を伝えてきた。「優秀な研修 医・学生」は、あんたを含めて（！）、先人の教育成果なんだ。

そしてネットが発達して、知らないことがあればその場で調べれば済むように なった。物知りがでかい顔をする時代は終わった。自分より物を知らない研修医に「できの悪い研修医」とラベルを貼れる時代は終わった。オヤジ・オバハン達 は、学生に，研修医に，スマホなりタブレットなりを見せてもらって教えを請う時代になった。

「優秀な研修医」という表現には意味が無い。「（オヤジ達・オバハン達に）教え上手の研修医」という表現には意味はあるだろうが。

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