これが21世紀の医療だ

紹介状や手術所見をテープレコーダーに吹き込むと秘書がタイプで打ってくれる.米国、英国で仕事をしたことのある日本人の医者が,一番羨ましいと思う光景だ.しかもそれは何も偉い人だけの特権ではなく,ごく日常的な光景なのだ.

日本の診療で口述筆記と言えば,教授外来で,若い医者がたまにやらされるだけだ.それもすべての教授外来ではない.学生が外来に付く時だけで,他の場合には教授といえども自分でカルテ,処方箋を書かなくてはならない.

このご時世でなくても,僕なんか,秘書が付く身分とは金輪際,縁がないだろう.ではパソコンを秘書代わりに口述筆記できないものか.長ったらしい病歴聴取と神経学的診察のあと,それをカルテに記載する時間を,次の診察に振り向けられたら,外来の行列をなくせるだろう.紹介状や手術所見だって,手書きに比べたら時間は3分の1以下になるだろう.

しかし,それはまだ夢物語である.とくにコンピューターによる日本語の音声認識は英語にくらべて遅れている.もしパソコンによる口述筆記が実用的になれば,診療効率は革命的に良くなるに違いないのに.遠隔医療のような派手なことばかりにお金と労力をつぎ込まず,音声認識みたいな,地味だけど多くの人が恩恵を受ける技術を早く実用化してもらいたいものだ.口述筆記もできないような無能な機械を使って電子カルテとは片腹痛い.

7月16日に東芝から1時間録音できるデジタル録音機”ボイスバー”が出る.こいつは白衣のポケットにも差しておけるようなデジタル録音機だ.これを病棟や外来で声のメモ代わりに使おうと思っているが,21世紀とやらを越えても,まだまだ自分で自分の秘書をする日が続くようだ.

メディカル二条河原へ