二度目は喜劇として
(某日本最大の広告代理店における記録映画企画会議)

「いよいよだな」

「はあ・・・・」

「なんだ、いやに元気がないな」

「だって、どうやったって無理っすよ。今更記録映画なんて」

「なんで無理なもんか。前から言ってるだろうが、これは千載一遇の好機なんだって。転んでもただでは起きない。火事場こそ稼ぎ時、それが我が社是であること忘れたのか!!」

「スタンドに観客がいない。誰が金メダル候補かなんて誰も知らない。そんなオリンピックがなんで記録映画になるんすか?火事場にもならない。お通夜がなんで稼ぎ時になるんすか?!万が一収益が上がっても香典泥棒呼ばわりされるのが関の山です」

「違う、泥棒じゃない。ビジネスチャンスと呼べ。これも我が社是だろうが。全く物覚えの悪い奴だ。それに誰が57年も前の焼き直しをやれって言った?!そもそも元ネタの時期も場所も違う。時は76年前の4月。場所はベルリンだ。どうだ、わくわくするだろう」

「何言ってんすか。ベルリンオリンピックは1936年、85年前の8月ですって。物覚えの悪いのはあんたの方だろ」

「いや、記銘力障害のあるのは君の方だ。76年前の4月のベルリンと聞いて何も連想できないとはな。こんな素晴らしいアイディアが理解できないとはな。もういい、君には頼まない」

「(なんでまた部分的に丁寧語になるんだ?)待ってください。わかりました。ただ、大きな問題が残っています」

「何だ?」

地下壕をどうするんですか?」

「いや、記録映画なんだから、そのまま撮ればいい。余計な細工をする必要はない。CG/VR一切無しのゼロコスト。前世紀型の本物の記録映画で勝負するんだ」

「(えっそのままって・・・地下壕を破滅の象徴にするんじゃねえのかよ)でも、そんなものが・・・・」

「売れないとでも言いたいのか?」

「もちろん。スポンサーも見つからない。赤字垂れ流しの企画。それこそ世界に冠たるぼったくり広告代理店にとって、末代までの恥です」

「そこだよ。この企画の真の目的は。これは我が社の社会貢献なんだ。コロナで多くの市民が塗炭の苦しみを味わっている中、我が社がオリンピック関連事業で散々ボロ儲けしたことが露見してしまった以上、何らかの形で懺悔の社会貢献をしなければならない。それがこの記録映画の目的なんだ。今度ばかりは赤字垂れ流し上等なんだよ」

「でも、どうして地下壕も作らない、CGも使わない、コストゼロの記録映画が社会貢献になるんっすか?そこんとこ、言い訳をよく考えておかないと、またよからぬことを企んでいるんじゃないかと思われて、記者会見で突っ込まれますよ。フロアにまともな記者がいればの話ですがね」

「大丈夫だ。言い訳ではなく、本物の社会貢献だから。だからこそ、先ほども申し上げたように、地下壕なんぞではなく、正に現実、地上の、明るい、立派な建物の中で、同時代的にリアルタイムで繰り広げられている悲劇の記録を残すのだと、そう発表すれば支持政党やワクチンの是非にかかわらず、全国民の皆様が納得してくださるでしょう」

「(またおかしな日本語使いやがる) さあ、どうだか・・・」

「何だ、それでもまだ納得しない奴がいるとでも言いたいのか?」

「(ほら、言葉遣いが元にもどった。身についていない証拠だ) だって、『火事場こそ稼ぎ時』が我が社是だってことは、もう国民の皆様にはバレバレで、今が正にその火事場じゃないっすか」

「・・・・・・」

「それに『二度目は喜劇』ってこともみんな知ってるから、どうせ、「”呪われたオリンピック”あたりのパクリ路線、コストゼロのハイリターンでまた一儲けしようって魂胆だろう」 って、すぐさま見破られちゃいますって」

新コロバブルの物語
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