Lemierre症候群:内頸静脈の血栓性静脈炎
肉親診療は禁忌
救急外来での系統的トリアージ法の提案
医者のコミュニケーション技術の教育
クニリカルパスは患者への嫌がらせか?
スタチンによるCK正常のミオパチ―
バリ島ディスコ爆破事件の教訓
ワースト3:言わずと知れた第一位
製薬会社を巡る動き
スペイン医師会がAMAとCMEの契約
尿路感染症による”肝性脳症”
諸国間での医薬品の価格の比較
セファロスポリン系抗生剤皮内反応の本当の問題点
合衆国での医療費高騰
高齢者医療に特別な費用はかからない
ビタミンB12欠乏による可逆性の舞踏病とジストニア
失神の発生率と予後
診断法のEBM
鼓膜体温計はだめ
慢性の咳の意外な原因
血圧を下げることが本質的
West Nile Outbreak
神様か蝿か
暮らしの手帳
検査室へ走れ:偽性高カリウム血症
患者取り違え
大リーグ医養成コラム
看護の充足度とケアの質
喉元過ぎても
造影剤による致命的な非心源性肺浮腫
大国の病
文盲にもインフォームド・コンセントの権利あり
化粧品並
imatinibの話題
エストロゲン投与は脳卒中予防にはならない
アジスロマイシンは急性気管支炎に無効
弾性ストッキングはエコノミークラス症候群の予防に有効
Donepezilは進行期のアルツハイマー病にも有効
コバシルの嘘
Norwalk virus
あしたのジョーは気取れない
Cerecoxibによる重症の血管炎
最上階に空き部屋あり
Lemierre症候群:内頸静脈の血栓性静脈炎
若年成人に多い.口腔内の感染がきっかけとなって起こることが多い.原因菌は,口腔内の嫌気性菌,とくにFusobacteriumの頻度が最も高い.感染巣が肺や胸膜に転移しやすく,これが致命傷になりやすい.免疫不全のない若年成人に発熱と下顎角及び胸鎖乳突筋に沿った圧痛と腫脹があった場合,本症を疑うが,頸部リンパ節炎,肺炎(転移巣だけを見ると),髄膜炎(頸部局所の痛みのために項部硬直類似の所見を呈する)と誤診して,投与する抗生剤が嫌気性菌に無効な場合,重症化,死亡することがある.現在でも死亡率は20%と言われる.
抗凝固療法の是非は議論の分かれるところ.内科的治療に抵抗性の時は,手術で内頸静脈を結紮することもある.
Woywodt A and others. A swollen neck. Lancet 2002;360:1838.
医者は肉親を診ちゃいけないのは,どこの国でも同じ事のようですな.この話は娘のクループを疑ったあわれな親父さんのお話.ランセットの一番後ろにあるこの欄,Jabs
& Jibesはいつも楽しく,ランセットは後ろから読む癖がついてしまった.
Druss RG. My most difficult patient. Lancet 2002;360:1796
急性脳卒中のクリニカルパスは,従来の診療と比べて,救急への再来,再入院を減らしたが,患者の満足度は低下し,QOLも低下させた.しかも6ヶ月時点での死亡は変化がなかった.クリニカルパスは医療者の独り善がりばかりではなく,さらに患者への嫌がらせでもあることが証明されたわけだ.
これは重大な問題である.鳴り物入りで宣伝され,日本では診療報酬体系に組み込まれて強引に普及させているクリニカルパスが,脳卒中の死亡率を改善しないばかりか,QOLまでも低下させてしまったのだ.唯一の効果である,救急への再来,再入院の減少も,クリニカルパスを嫌った患者が,もう,あんなところには行きたくないと,その施設を嫌ったからではないだろうか?その結果皮肉にも,医療費抑制だけには効果があることが証明されたわけだ.ひょっとして,厚労省は,この研究の結果を踏まえた上で,診療報酬体系にクリニカルパス採用の割増料金を組み入れたのではないか?
RCTそのものが少なく,また一つ一つのRCTの数も不十分だから,このレビューだけで結論するには問題がある.しかし,疾患によっては,クリニカルパスが患者の利益に繋がらず,むしろ害になる可能性があることは明らかになった.
この4例の筋生検所見では,筋線維への脂肪沈着,チトクロムCオキシダーゼ染色陰性線維の出現,ragged red fibers(ミトコンドリアミオパチ―のマーカー)が認められた.しかし,いずれの例でもクレアチンキナーゼは正常だった.少数例の報告ではあるが,非常に多く処方されている薬なので,同じ号のEditorialでも言及されている.
Phillips PS and others. Statin-associated myopathy with normal creatinine
kinase levles. Ann Intern Med 2002;137:581-585
Can statins cause chronic low-grade myopathy. Ann Intern Med 2002;137:617-618.
バリ島での教訓は以下の通り
1.そもそも死者が多すぎて,安置所が狭すぎて遺体の置き場がなかった.識別が終わった遺体と,まだ終わっていない遺体を別々に置くこともできないぐらいだった.
2.少なくとも遺体の識別が終了するまでは遺体は保存しなければならないが,遺体が腐らないように冷蔵保存するために膨大な資源,資金と労力がかかった.
3.遺体の識別が混乱した.はじめは家族の目視で済まそうとしたが,遺体の損傷が激しく,とても目視で判別できるような状態ではなかった.そもそもInterpol条約によれば,目視は遺体識別方法として認められておらず,指紋,歯型,DNAのいずれかを使わなくてはならない.しかし,ばらばらになった遺体の(複数のパーツ)を,一つ一つ別々に保管せず,いくつかをまとめて袋に入れてしまったため,コンタミが起こって,DNA鑑定ができなくなった.
4.通常をはるかに上回る医療需要が突然に生じたため,病院の機能が麻痺した.とくに観光客の診療が優先され,地元住民が劣悪な医療環境に放置された
医学研究や,ランセットのような権威ある学術雑誌さえも製薬会社から多くの恩恵を受けているし,製薬会社も医学研究や医学雑誌を商売に利用する.公共の利益よりも会社の利益を優先しようとする動きにより,製薬会社が提供する情報がゆがめられる危険性が常に存在する.
Collier J & Iheanacho I. The pharmaceutical industry as an informant.
Lancet 2002;360:1405-9
日本はどうするだろうか.日本医師会が同じことをやることは絶対ありえないが,内科学会の認定内科専門医会あたりからは話が出てくる可能性がある.
Attempts to develop a skin test for allergy to cephalosporins have been unsuccessful. と,下記の総説にもはっきり書いてある.参考文献は記していないが,裏を返せば,皮内反応の有効性を示したエビデンスがないからこそ,参考文献の引用のしようがないのだろう.
Kelkar PS & Li JTC. Cephalosporin Allergy. N Engl J Med 2001;345:804-809
皮内反応の最大の問題点は,実はそのものが無意味だという点ではない.皮内反応が陰性であることによって,アナフィラキシーショックを除外できたと安心してしまうことである.皮内反応ではアナフィラキシーショックは予見できないのだから,ただ単に皮内反応をやめるだけでは,単に無駄を省いたに過ぎない.大切なのは,皮内反応をやめる代わりに,初めての注射そのものの開始時に,アナフィラキシ―ショックが起こりうることを覚悟して,臨むことである.では実際にはどのように対処したらいいか?
寺沢秀一先生の名著,研修医当直御法度症例帖(三輪書店)p230には,次のようにある.
” アナフィラキシーショックでは,投与されてから短時間のうちに発症するほどより重症という法則がある.したがって,危険なアナフィラキシーショックが起きる患者では,ほんの少量入った時点で発症してくる可能性が大きい.
したがって,第1回目の抗生剤を静注する時には,まずほんの少量いれて止め,そのまま患者を観察し,1−2分以内にアナフィラキシーショックの症状が出てこない場合はさらに半分ぐらいまで静注して,もう一度止める.
ここで何の症状も起きてこないなら,後の残りの半量はかなりのスピードで入れても良い.このようにすれば,どの時点でアナフィラキシーショックが起きても,最小限の症状でおさめられる.筆者は第一回目だけは上記のようなやり方で自分が静注し,第二回目からはナースにまかせている”
こういう国をお手本にしたのが,日本の医療改革とやらである.
EBMの普及のおかげで,治療に関しては,随分と質の高い論文が優先され,質の低い論文が出てこられないようになったが,診断法の吟味に関してはEBMのご利益がまだまだ及ばないように思える.つまり,ある新しいがマーカーが,ある疾患で高値を示すとか,ある画像所見がある疾患で見られたという段階に留まる論文が多く,特異度,感度,あるいは尤度比といった基本的な数値が全くわかっていない検査指標がなんと多いことか.そういう検査指標を一つずつ地道に検証する仕事を奨励する動きが始まっている.
この仕事は決して難しいものではない.あなたにもできる仕事だ.実際に,同じ号のAnn
Intern Medでは,II型糖尿病の診断に際して,Reference valueを網膜症とした血糖値とヘモグロビンA1Cの価値を再評価した仕事が出ている.
R Graham Barr and others. Tests of Glycemia for the Diagnosis of Type
2 Diabetes Mellitus. Ann Intern Med 2002;137:263-272
マサチューセッツ総合病院から出ているとは思えないほど地味な仕事は日本では地味すぎて見向きもされないのではないかと思うほどだ.
Cardiovascular protection and blood pressure reducation: a meta-analysis. Lancet 2001;358:1305-15.
この論文は9つのRCTの meta-analysisなのだが,どんな種類の降圧剤でも,心血管系の合併症や脳卒中の予防に関しては血圧をいくつ下げるかが重要なのであって,薬の種類で差はないのだ.辛うじてカルシウムチャネルブロッカーが脳卒中の予防効果があるかもしれない.ACE inhibitor,αブロッカーには特別な心臓保護作用はなかったという.
高い薬はどれだけ意味があるのだろうか?
この,日本脳炎の仲間のウイルスによる脳炎に関しては,先にまとめたが,今年に入ってメキシコ湾岸のテキサス,ルイジアナ,ミシシッピといった州で流行している.日本で流行しないという保証はどこにもないので,流行状態には気をつけておきたいものだ.
Mortality among patients admitted to hospitals on weekends as compared with weekdays. N Engl J Med 2001:345:663しかし,一方で,新生児科医に恵まれている地域は,新生児の死亡率が低いかというと,そうでもない.やはり役立たずなのかとがっかりする.
D.C. Goodman and Others. The Relation between the Availability of Neonatal Intensive Care and
Neonatal Mortality. N Engl J Med 2002; 346: 1538
さらに,SNICUに医者(それも,英国ではコンサルタントと呼ばれる,部長クラスの上級医)が出入りすればするほど,院内感染が多くなるというデータがある.こうなると蝿同然である.
The UK Neonatal Staffing Study Group. Patient volume, staffing, and workload in relation to
risk-adjusted outcomes in a random stratified sample of UK neonatal intensive care units: a prospective evaluation. Lancet 2002; 359: 99
市販の虫除けスプレーのうち,どれが一番効果的かという研究が,NEJMのフルペーパーになるって,知っていましたか?
M.S. Fradin and J.F. Day. Comparative Efficacy of Insect Repellents against Mosquito Bites. N Engl J Med 2002;347:13-18.
溶血によらない偽性高カリウム血症の原因の一つに,赤血球膜を通してカリウムが漏出する現象がある.これは採血試料が体温から室温に冷やされる際に起こる.上昇の割合はS1時間で1meqに達する.だから,このような患者の採血では,正しいカリウム値を得るためには,急いで検査室に持っていかなくてはならない.この種の偽性高カリウム血症はautosomal dominantで遺伝子座は16番染色体にあることまでわかっているという.
Bijayeswar Vaidya, Kakit Chan, John Drury, Vincent Connolly. Case report: A race to the lab. Lancet 2002;359:848.
またその話かと言うなかれ,今度は米国での話である.脳血管造影予定のSJoan Morris 67歳をJane Morrison77歳を取り違えて,心臓カテーテル検査を行なってしまったという一事故の記述なのだが,それが,Ann Intern Medにフルペーパーとして載ったのは,米国でも,患者取り違え事故が公に語られることがないからだ.読んでみると,どこかの国で起きた事件にそっくりの状況である. How could so many well-trained and well-intentioned health care professionals ignore so many seemingly clear signals that they were subjecting the wrong patient to an invasive procedure ?
この素朴な疑問は,日本人だけが抱くのでない.
小学4年生に医学研究を理解してもらい,研究者養成の裾野を広げようという試み.興味のある方は,該当サイトを ご覧あれ.
病院の看護の充足度が低いと,患者の合併症や死亡のリスクが高まるかどうかは不明である.本研究では,正看護師によって提供されるケアの時間的割合が高いほど,また正看護師によって提供されるS 1 日当りのケア時間が長いほど,入院患者のケアはよりよくなる.と結論している.医者の場合はどうだろうか?
魚の骨が胃壁穿孔,肝膿瘍を起こして死亡した剖検例.基礎疾患のない46歳男性.魚を食べてから5日後の発症.CTが診断に役立つ(多分骨が線状の石灰化陰影として映るからだろう).これまでも,日本と中国から散発的に報告がある.わが国では原因不明の肝膿瘍・腹膜炎の原因として,魚の骨による胃壁穿孔を考えておくべきだろう.しかし,小腸ならともかく,剖検であれだけ丈夫な胃に,魚の骨で穴が開くというのは,おそろしいですなあ.
アナフィラキシーとは違って,注射後少し遅れて出てくる(このケースでは25分後).かゆみ,発疹,喘鳴もない.この報告の著者らはこれまで20例の報告をまとめているが,アナフィラキシーと考えれられたケースはもっと多いだろう.
注射後少し遅れて出てくるからやっかいだ.CTのガントリーに入ってから呼吸が停止するわけだから.処置も遅れるだろう.
Oscar Benitez, Dominique Devaux, Jean Dausset. Audiovisual documentation of oral consent: a new method of informed consent for illiterate populations. Lancet 2002; 359: 1406
同様のことは,製薬会社のドル箱である降圧剤にも言えることは,このページでも何回も繰り返し主張してきた.→再び降圧剤の選択について,高血圧:”新薬”は何のため?,コバシルの嘘
高い薬なら,それだけサービス内容もいいだろうという,おめでたい思い込みが医者と患者の両方にあり,それが現代の医療サービスの高騰につながっている.これでは医薬品も化粧品も同じではないか.ちなみに,日本で同様に使う薬として,小児用バファリンS1錠 6.4円,一方パナルジン(チクロピジン)は,100mg 1錠79円である.クロピドグレルほどではないが,チクロピジンの方が12倍の値段だということになる.
J.-M. Gaspoz and Others. Cost Effectiveness of Aspirin, Clopidogrel, or Both for Secondary Prevention of Coronary Heart Disease. NEJM 2002; 346: 1800-06.
一方,臨床に使われはじめてからまだ日が浅いため,様々な有害自傷が新たに見つかってくる可能性がある.下記の論文はimatinibによる治療中に重篤な脳浮腫を起こした2例の報告である.
症例1.61歳の女性.CML.ヒドロキシカルバミド(ハイドレア)で治療後,lymphoblastic crisisを起こしたため,2000年1月にimanitib600mg/日服用開始した.3ヵ月後にCMLは寛解したが,半年後に頭痛,吐き気が始まり,9月には重篤な脳浮腫が出現したため,imanitibを中止したところ,脳浮腫は消失した.その後しばらくして,300mg/日で再開し,骨髄にblastが20%となったため800mgに増量したが,その後脳浮腫は出現していない.
症例2.68歳男性.CML.imanitib600mg/日服用開始後4週間で嘔吐が出現したため,一旦中止した.その後,400mgで再開したが,やはり嘔気嘔吐が出現した.間もなく中止したが,結局死亡した.剖検では脳浮腫は明らかだったが,白血病細胞の浸潤や脳梗塞,脳出血の所見はなかった.
M Ebnoether, J Stentoft, J Ford, L Buhl, A Gratwohl.Cerebral oedema as a possible complication of treatment with imatinib. Lancet 2002; 359: 1751-2.
骨粗鬆症の予防,更年期障害の治療の上に脳卒中の予防になれば,こんなうまい話はないのだが,そうではなかった.
やたらと使うべきではないとの根拠の一つとして,急性気管支炎に使っても意味がないと出た.職場(あるいは日常生活への復帰)の日数という,きわめて現実的なアウトカム評価だけに,説得力がある.こういうアウトカム評価は,実際の生活に即しているし,手間も費用もかからないのだから,これからもどんどん奨励されるべきだろう.
Arthur T Evans and ohters.Azithromycin for acute bronchitis: a randomised, double-blind, controlled trial. Lancet 2002;359:1648-54.
エコノミークラス症候群は名前だけは有名になったのだが,一体どのくらいの頻度で起こるのか,どんな治療法が有効なのか,きちんとしたデータがなかったが,初めてしっかりしたデータを出してきたのがこの論文である.対照群での下肢静脈血栓症はS10%と,驚くべき頻度の高さになっている.しかも,これが,超音波による腓腹部の静脈血栓を検出した結果だというのだから,おそらく,本当の頻度はもっと高いだろう.これは術後患者に匹敵するほどの高頻度だ.(しかしその全例が肺塞栓症に発展するわけではもちろんない)
それが,弾性ストッキングを着用すると,0となってしまうという(ただし,表在性の静脈炎が4%に起こる)
従来,初期のアルツハイマー病にしか効かないといわれていたドネペジルが,進行したアルツハイマー病にも効くとなれば,費用の問題を別にすれば,今までこの薬剤の使用に消極的だった医者も使ってみようかという気になるだろうか.
しかし,肝心な問題が残っている.いったいいつまで使えばいいんだ.この論文では,24週間.つまり半年足らずしか使っていない.止める目安は誰も知らないのだ.
元になったのは,下記の論文です.
PROGRESS Collaborative Group. Randomised trial of a perindopril-based
blood-pressure-lowering regimen among 6105 individuals with previous stroke
or transient ischaemic attack. Lancet 2001;358:1033-41.
この論文では,降圧のため,ペリンドプリル単独か,あるいはペリンドプリルにインダパミドindapamide(日本の商品名ナトリックス:普通のサイアザイド系利尿薬です)を加えてもいいようなプロトコールになっています.
ほとんどのデータはペリンドプリル単独群とインダパミド併用群を合わせて,”治療群”として,偽薬と差があるとしている.つまり血圧を下げると,脳卒中が予防できるという結論.まあ,それはそれでいいのです.
しかし,一番後ろの図5よく見ると,脳卒中の予防効果があるのは,インダパミド併用群であって,ペリンドプリル単独群ではプラセボと差が出ていない.つまり,そのまま素直にとると,サイアザイド利尿薬による脳卒中の予防効果を示した論文ということになる.(正確に言えば,インダパミド単独群,ペリンドプリル単独群,併用群の三群で比較しなくてはいけない).ちなみに,利尿剤が,単なる降圧作用以外の作用を介して脳卒中予防効果を示すことは,βブロッカーとの比較で,かねてから知られていることである.(BMJ 1985; 291: 97-104)
この点は,ランセットのCorrespondence(Lancet 2001;358:1993)やACP-Journal Club(ACP Journal Club.2002;136:51.)も指摘していて,それぞれ次のように述べている.
my take-home message from this report would be to start patients on a thiazide diuretic after a stroke or transient ischaemic attack. Addition of perindopril might be beneficial, but, unfortunately, the double placebo in this study makes the study design unsuitable to address that question direclty.
PROGRESS contains 2 distinct trials.The combination of perindopril and indapamide showed large and consistent benefits; perindopril alone did not. The results of the 2 trials should not be combined or even compared.
はじめの研究の目的は,ペリンドプリルの効果を見るためだったのでしょうが,結果はそうではなく,むしろ併用したありきたりの利尿剤の効果が明らかになってしまった.これはよくあることで,仕方がない.
しかし,薬屋のプレゼンでは,ペリンドプリル単独群とインダパミド併用群を合わせて,”ペリンドプリル群”として,ペリンドプリルが脳卒中に予防効果があると宣伝し,インダパミド併用が実は効果があったのだとは一言も言わない.
元の論文と,その日本語訳を手許に配っているにもかかわらずですよ.プレゼンターは,ただ,言われるた通りやっただけで,論文の中身など読んでなかったのでしょうが,きちんとした学会発表なら永久追放になりかねない詐欺に近いデータ提示の仕方を見て,”なめんなよ”と,つい,かっとなって,”イカサマだ”と叫んでしまいました.ご丁寧に,メディカルトリビューンの抜粋で欧州高血圧学会PROGRESS特集なるパンフレットにも,今日薬屋さんがやったプレゼンと同じものが載っていました.
もとの論文も,決して嘘は書いていないのですが,インダパミド併用が実は効果があったという一番バツの悪いデータを,(おそらく恣意的に)一番後に持ってきているのも,誤解を招く(あるいはごまかしやすくする)一因となっています.こんなプレゼンの仕方をする論文載せるぐらいなら,俺の論文リジェクトしてくれるなよなあ.
わが国から33施設,815例が参加した大規模国際研究だそうですが,こんな詐欺まがいの営業がまかり通っているのを目の当たりにして,忙しい師走に,やはり薬屋の説明会など出るんではなかったと,後悔したのでした.
さらにその後ALLHAT試験が出た:
Major outcomes in high-risk hypertensive patients randomized to angiotensin-converting
enzyme inhibitor or calcium channel blocker vs diuretic: The Antihypertensive
and Lipid-Lowering Treatment to Prevent Heart Attack Trial (ALLHAT). JAMA.
2002 Dec 18;288(23):2981-97.
本欄では,高い新薬よりも安い降圧利尿薬の方をお勧めしてきたが,ALLHAT研究は,私の方針を支持してくれている.その後,慢性腎疾患とか,糖尿病とか,様々な合併症がある人に限れば何とかサルタンがいいとかいう報告が出ているが,それも,裏を返せば,多くの本態性高血圧症患者では,降圧利尿剤で十分だということだ.
合衆国では,研修医の8割弱がburnout syndrome燃え尽き症候群だという.コストパフォーマンスが世界一の日本では,医者が合衆国よりも恵まれているはずがない.だから日本ではもっと状況は悪いだろう.よく言われることだが,患者と医者とどっちが病気か,どっちが先に倒れるかという状況だ.医者が病気になって得する人は誰もいない.
抗炎症薬それも,売り出し中のCOX-2 inhibitorによる重症の血管炎ということで,注目しておくべきだろう.症例は52歳男性で,頭頸部の神経痛に対して服用後8日目で発症している.薬疹で初発後,すぐに服薬を止めてプレドニゾロン40mgの投与を受けたが2−3日後には発熱と下痢で入院,その後も症状は進行し,入院後8日目に多臓器不全で亡くなっている.
Editorial Room at the top. Lancet 2002; 359:811
合衆国で,軍医総監,FDA長官(Comissioner),NIH所長,Adminisrator of the Health Resources and Service Adimistratrationといった医療・保健関係の要職が軒並み空席となっている.これは,いくつかの理由が考えられる.第一に,George Bush政府の,医療・保健・福祉政策への態度(かならずしも重視していない),第二に幹細胞や妊娠中絶・家族計画といった議論の多い問題で,時の政府やその支持者たちと事を構えたくないという考え,第三に,政治的,社会的に必要以上に騒がれたくないとという候補者の気持ち.こういった理由で,候補者がみんな逃げてしまっているのだ.さもありなん.日本でも,これだけ行政が叩かれると,有能な人材はみんな逃げてしまって,残ったのはカスばかりとなり,そのカスがまたヘマをやらかして,また叩かれるという悪循環になりかねない.