以前,天動説の世界については,お話した.今回は地動説を紹介する.地動説を紹介するからには,天動説の話から始めなくてはならない.この場合の天動説とは,
”傷は消毒し,ガーゼを当てる.そしてなるべく乾かすのがよい”
との主張である.この天動説は現在でもかなり根強いものがあるが,実は何の科学的根拠もない.なのに,今日まで生き延びてきたのは,清潔・抗菌グッズ信奉が,一般世間ばかりでなく,医療従事者の間でも非常に根強いからである.
この天動説に対する夏井先生の論理展開は極めて明晰である.だから,当初は頑迷な医者よりも,柔軟な看護師を始めとする医者以外の医療従事者,一般市民の方に愛読者が多かったようだが,今では,医者も次々と訪れている.夏井先生のお話はわかりやすい.要は,
1)創の洗浄:水道水でよい.傷を持っている人は風呂に入って傷の部分を良く洗うこと.
2)消毒薬は使わない.抗生物質の乱用ももっての外.
3)創の湿潤を保つ
4)創の治癒あるいは癒合面をはがすような行為のガーゼ添付は止めよう
ということなのだが,かすり傷,皮剥けから始まって,褥瘡,気管切開,中心静脈カテーテル,関節穿刺,胃瘻瘻孔といった様々な形の創傷に対して,一つ一つ具体策を挙げていて,非常に実践的である.
傷に対する医療は非常に奥が深いが,日常的なことに対して,具体的な対策を立てて効果が目に見えて現れてくる楽しさを味わえる分野である.医師以外の医療従事者はもちろんのこと,医師免許を持たない一般市民の方々も,読んで,見て,非常に面白く,ためになるに違いない.
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