ちゃんちゃらおかしい
ーあるいはものぐさな初老の医者の話ー

へっ、何が「総合診療医」だ。ちゃんちゃらおかし いやい。「う ちじゃない科」になっちまうのは、それなりに理由があるってもんだ(*)。

医者なら、誰でも、しょっちゅう「わからない」って時がある。それを、誰に向かって、いつ、どういう形で表現するかの違いだけなんだ。

今は、どうにも見立てがつかない。しかし、患者は今すぐここで100%明確な答えを出せと圧力をかけてくる。そういう時に「今は私にはわかりませ ん」と正々堂々と患者本人に向かって言えるぐらいの図々しさは、検察官から藪医者と言われでもしない限り生まれない。

だから、ほとんどの神経内科医は「この藪医者め」と目の前で悪態をつかれるのが怖いばっかりに、「わかりません」と正直に言う代わりに、仕方なく「う ちじゃない科」になっちまう。それだけだ。

一方、私のように「わかりません」を連発し、今すぐここで100%明確な答えを出せと圧力をかけてくる患者に決して迎合しない傲慢な医者には、そ のような圧力を決してかけてこない患者様だけを診療する、矯正医官のような仕事がふさわしい。それでいい。私の才能は、今すぐその場で答えが出る ような仕事のためにあるのではない。

できる社員はやり過ごす(高橋伸夫)。中腰で耐える(春日武彦)。大切なものは目に見えない(星の王子様)。大切なことほど後になってわかる(池 田堂謹製)。

私の才能は、こういった珠玉の言葉を噛みしめながら仕事をすることによって初めて発揮される。

(このコラムを読んでくれた、某院で「総合診療」の文字が入った某外来で診療している中堅とのやりとり)
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中堅:ドクターGという番組のある意味の「副作用」だと思いますが、総合診療、という言葉が独り歩きして、総合診療があれば「マニアックな病気が 診断できる」「どんな症例でも即座に診断できる」「病名を一つに決めてくれるに違いない」という変な思い込みが出ているのを感じます。学生諸君の 責任ではないと思いますが、先日実習に来た大学3回生の学生さんも「どんな人でも診断できる医者」というイメージを僕に持っていたようです(救急 の指導役になりましたので、アンケートするとそういう回答でした。)。また、私はある専門診療科の外来にも出ているのですが、そこに通院している 方のうちの一人で、ドクターショッピングを繰り返している方が「総合診療をやっている病院に紹介してほしい」と希望していた場面にも出くわしまし た。

私:「総合診療をやっている病院に紹介してほしい」とおっしゃるような「味にうるさいお客様」に距離を取っていただく一番効率的な方法は、「わか らない」「すいません、藪医者です」を連発することですが、年を取ってそれも面倒になると、塀の中のように、そういうお客様が決して寄りつかない ところで仕事をするようになります。
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